臨床心理士の西井です!
人前に出ると緊張して話せない・・!
自分は病気なのだろうか?
このようなお悩みを持った方に向けて、今回は記事を書かせていただきます。
この記事を読んでくれているあなたは、大勢の人が見ている前でスピーチをする時に緊張して声や手足が震えたり、汗をかいたりして困ったことがないですか?
「自分は病気なのでは・・?」と不安になり、1人で抱え込んでしまっている方もいるかもしれません。
今回の記事では、人前に出ることに強い不安を感じることを特徴とした精神疾患や、対処法について解説していきたいと思います。
1. 人前で緊張してしまう・・!病気の名前は「社交不安症」

人前で過度に緊張してしまい、それが生活を阻害している場合、医療機関などで「社交不安症」と診断されることがあります。
一般的には「あがり症」や「対人恐怖症」などと呼ばれることが多いですが、正確な診断名だと「社交不安症(または社会不安障害)」などと呼ばれます。
以下のようなお悩みがある場合、一度精神科や心療内科を受診してみるのも1つかもしれません。
・大勢の人が見ている前で発表やスピーチをすると過度に緊張し、手足が震えたり、大量の汗をかいたりする。
・会食をする時に他者からどう見られているかと不安になり、手が震えたり食事が喉を通らなかったりする。
・人前で字を書く時、それを見られていると緊張して手が震えてしまう。
・電話に出るのが怖い。相手から変に思われたり、それを見ている人から変に思われているのではと考え過度に緊張してしまう。
上記のようなお悩みをお持ちの場合、そのまま1人で抱えるのではなく、専門家に相談してみるのも1つかもしれません。
2. 一般的な「緊張」と「社交不安症」の違い

一般的な不安や緊張と、社交不安症の違いは、「どれくらい生活が障害されているか」にあります。
例えば、中学生のAさんが、半年に1回ほどの発表会の時に強い緊張を感じ、頭が真っ白になり、とても辛い思いをしてしまったとします。
それでも次の日からはけろっとしていつも通り登校し、徐々に発表会の苦痛も軽減されていくなら問題ないでしょう。
しかし、発表会への苦痛をずっと引きずってしまい、学校へ行けなくなってしまったり、その他の社交的な場面も避けるようになってしまったり、毎日学校に行くのが不安で仕方なくなってしまったりするのであればそれは問題です。
不安によって日常生活が障害されているので、治療が必要です。
3. 社交不安症の背景にある原因は様々

きっとあがり症が原因で悩んでいる方は、人前で過度に緊張してしまったり、手足が震えたり、声が震えたりすること自体をどうにかしたいと感じているのではないかと思います。
しかし、実際は「心動くところに大事なものがある」もの。あなたにとって大切な問題が、緊張の背景に隠れているのです。今回は、いくつかの背景要因をお伝えしてみます。
背景要因1: 自己注目

これは思春期から現れることが多い印象です。僕の場合は、中学生の頃にクラスメイトの前でリコーダーの発表をした時はじめて現れました。緊張で息が震え、吹けなくなってしまったのです。
1番ひどかったのは大学1年生の時。スピーチの練習をする授業の時、緊張で持っている紙が震え、そのまま頭が真っ白になり何も話せなくなってしまったのです。
後になって考えれば、その背景にあるのは「自己注目」あるいは「自意識過剰」であったと思います。多分僕は本質的には目立ちたがりやで、「人からどう見られるか」を意識しすぎていたわけですね。
ただ、「人から良く見られなくては」という理想像が自分をガチガチに固めてしまいます。「人前で格好悪いところを見せてはならない」と思うが故に緊張してしまうのです。
<自己注目への対処法>

僕の場合、社会人になってから人前で話すことへの恐怖心が減りました。多分理由の1つは、現実を知ってプライドをズタズタにされたこと(笑)
社会に出て「出来ない自分」に直面してから、ある意味「理想像としての自分」もリセットされました。そして僕は対人援助職なので、「自分がどう見られるか」よりも、「相手をいかに見るか」が重視されるようになります。すると、自己注目の状態から他者注目へのシフトが起き、自然に緊張しにくくなったのかもしれません。
自己注目タイプに該当すると思った方は、「相手を見ること」「相手の話を聞くこと」に視点をシフトさせていくことがおすすめです。また、人前で話すことへの不安とは、闘おうとするのではなく「受け入れる」ことが大切です。緊張して恥をかいても良い!挑戦が大切!と思っておきましょう。
背景要因2: 対人トラウマ

過去に対人関係上のトラウマがあり、他者への不信感、そして自分自身への心許なさを感じています。代表的な対人トラウマが「いじめ」。心の深い所に他者への不信感を根付かせてしまっており、「またああなったらどうしよう」「自分が悪いのでは」という中核的な信念を持っています。壮絶ないじめではなくても、クラスメイトからちょっかいを出されたり、いじられたりした経験も立派にトラウマの原因となります。いじめの定義は「本人がどう感じたか」が全てですからね。
<対人トラウマへの対処法>

キーワードは、「スキーマ」と「基本的信頼感の回復」です。スキーマとは、自分の「ものの捉え方」のベースとなっている信念のことです。対人トラウマを経験したことがある場合、「人は怖い」「いつか裏切られる」「自分は無力だ」などのスキーマを持つ、厳密には「持たされる」ことが多いのではないかと思います。
セラピストとの長期的な関係の中で話し合い、そういった否定的スキーマをマイルドにしていくことが重要と考えます。また、「行動」を通してスキーマに反論していくことも重要であり、まずはセラピストとの2者関係の中で人への信頼感を回復し、徐々に交流を現実生活の中で広げていきます。
実際、世の中には心ないことを言う方もいますよね。そういった時に備え、自己主張のトレーニング(アサーション・トレーニング)を行なっておくことも有効と考えています。これは、「自分は無力である」という否定的スキーマへの反論にも繋がると思うのです。
背景要因3: 気質

生まれつき緊張を感じやすい、という方も多いのではないでしょうか。更に言うと、「扁桃体が活性化されやすい」という言い方もできます。扁桃体とは、危機的な状態に備えて不安や恐怖心を賦活させる脳の領域です。これは脳の特徴なので、ほとんど「遺伝」ですよね。この場合は、小さい頃からその特徴が現れていた可能性も高いのではないかと思います。
・公園で色々なものを怖がっていた
・保育園や幼稚園の頃、クラスに馴染むのに時間がかかった
・子どもの頃から発表会が苦痛だった
上記のような特徴が見られた場合、生まれつき人前で緊張を感じやすい「脳」である、という見方もできると思います。また、この気質は、あらゆる背景要因と相互作用していると言えるでしょう。
例)
気質的な緊張しやすさ×思春期の自己注目=過度の緊張
<気質への対処法>

遺伝的に脳が緊張しやすいという状況下で、「緊張しないようになる!」というのは、果たして懸命な判断でしょうか?
僕は、それよりももっと大切なもの、「自分はどのように生きたいのか」ということが大切なのではないかと思います。
例えば、イラストレーターになりたいBさんがいたとします。彼は人前で話すことが生まれつき苦手です。
この場合、「人前で話せるようになること」に多くの時間を使うより、絵を描くことに存分に時間を使ったほうが得策だと思うのです。
しかし、自分の描いた作品をプレゼンテーションすることは、イラストレーターとしての将来を左右してしまうこともあるでしょう。その場合は、そのプレゼンテーションにおいて、自分の作品をアピールするために、スピーチの練習をするのが良いと思うのです。あがり症自体を克服するのではなく、それが自分のやりたいことを妨害するときにのみ、対処すれば良いのです。
背景要因4: 背景に発達障害がある

例えば自閉スペクトラム症(ASD)の場合は、他者とのコミュニケーションに問題を抱えることがあります。相手の心を推測することに苦手さがあり、これまでの生活の中で対人トラブルにつながったり、他者から指摘を受けることを経験してきているケースもあります。
「何でか分からない。でも人からコミュニケーション面での指摘を受ける」というのは、ご本人からしてみれば「どこに地雷があるのか分からない」というとても心許ない状態だと思います。
それが他者と関わることへの不安につながり、人前で話したりすることへの恐怖心となることもあるのではないかと思うのです。
<発達障害が背景にある場合の対処法>

僕は、大人の発達障害である場合でも、コミュニケーションにおける「正解」を一緒に考えていくことは重要なのではないかと考えます。どこに地雷があるのか分からないのであれば、どこが地雷でどこが地雷でないかを一緒に考えるのです。
例えば、初対面の女性にいきなり年齢を聞くのは不適切であることが一般的には多いと思います。それを、「一緒に考えて」いきます。
でも、ご本人が生まれつき好きなことや得意なことがきっとありますよね。それは個性であり、かけがえのない強みなんだということも認識していただき、強みを活かしていけるよう、話し合いや生活の中で促していきます。「基本的にはそのまんまでも素敵なんだ」と認識したうえで、社会的なマナーや他者理解を促していくことが重要と思うのです。
4. 社交不安症を治すには

社交不安症を治すには、まずは医療機関で専門家に診てもらう必要があります。その上で考えられるのは、以下のような治療です。
薬物療法
医師の判断により、抗不安薬などの薬を処方されることがあります。薬物療法で根本原因を治すというよりは、薬を活用することで、まずは不安と向き合う心の余裕を作るイメージです。
認知行動療法
認知行動療法は、社交不安症への有効性が認められています。自分自身の「ものの捉え方」にアプローチしていく中で、柔軟な思考を持てるようトレーニングしていきます。
社交不安症の認知行動療法では、とくに「自己注目」や「否定的自己イメージ」に焦点を当て、自分が話している姿をビデオに撮り、実際は周囲から見てさほど緊張をしているようには見えないことをフィードバックしたり、「行動実験」を通して自然に不安がなくなっていくよう促すなどの取り組みを行います。
参考: 社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)/ 厚生労働省
まとめ

今回の記事では、人前で緊張して話せなくなってしまうことなどを特徴に持つ精神疾患として、社交不安症について解説させていただきました。社交不安症は、誰にも言えず、1人で抱え込んでしまっている人が多い精神疾患としても知られています。社交不安に悩む多くの人は、「自分が弱いだけ」と捉えてしまうのです。しかし、適切な治療を受けなければ長期に渡って苦しみ続けることになり、そこからうつ病を併発してしまうケースなどもあります。この記事を読んで、自分は社交不安症かもしれないと思った方は、ぜひお気軽に医療機関を受診してみてくださいね。
過去の記事では、認知行動療法を受けられる東京・横浜の医療機関をご紹介しているので、参考にしていただけますと幸いです。
