いじめ後遺症を克服し、自尊心を回復するには

いじめ後遺症

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臨床心理士の西井と申します。

簡単に自己紹介しますと、僕はとある施設で心理士として勤務しつつ、うららか相談室というオンラインカウンセリングにて認知行動療法をベースにした心理相談を行っています。また、認知行動療法をベースにした心理相談室(心理相談室HappyFeeling)を運営していますので、ご興味のある方はサイトを覗いてみていただけると幸いです。

今回の記事では、いじめ後遺症と自尊心の関係性についてお話ししたうえで、「じゃあ自尊心を回復していくにはどうしたらいいのか?」ということを専門的な立場から解説していきたいと思います。

大人になってからも自分に自信が持てなかったり、人間関係で積極的になれないのは過去のいじめのせいではないだろうか?

この記事を読んでくださっているあなたは、きっとその事に気付かれているのではないかと思います。この記事を読んでいただくことで、過去のいじめによって作られた「反応パターン」を客観的に眺め、少しずつ前を向くヒントとなるのではないかと思います。

1. いじめ後遺症とは?

いじめ後遺症とは、過去に受けたいじめが原因で、自尊心が低くなってしまったり、人と関係性を築くのが困難になってしまうことを言います。「いじめ後遺症」という診断名があるわけではないのですが、うつ病パニック症社交不安症心的外傷後ストレス障害などを発症する根本的な原因となることがあります。

とくに、最近注目を集めている概念として、成人いじめ後症候群(APBS)があります。これは、大人になってからも昔のいじめられた経験を引きずっており、社会生活は送れているものの、自分に自信が持てなかったり、人と関係性を築くことに恐怖を感じてしまっていたりすることを示す概念です。

APBSの最たる特徴として「低くなってしまった自尊心」があるのですが、この自尊心は、後からでも回復させることができる可能性があります。

2. いじめ後遺症と自尊心の関係

そもそも自尊心とは、

・自分を認められている感覚

・自分には価値があると思えていること

などを示しています。

なぜ、いじめに遭うと自尊心が低くなってしまうのか

ということについてですが、これにはスキーマという概念が深く関わっています。スキーマとは、認知療法の中で使われている概念であり、自分自身の根底にある価値観のことです。

人は社会的な生き物であり、集団の中で自己イメージを作り上げます。そして、いじめを受けると思考パターンの根底であるスキーマがネガティブなものになってしまうわけですね。

実際は、集団とは流動的なもの。集団の中でその人が悪い立場にいたからって、実際にその人が劣っていることを示すわけではありません。しかし、いじめによって刷り込まれたスキーマは残り続けてしまうのです。

また、瞬間瞬間に浮かぶ思考のことを自動思考と言うのですが、自動思考は根底にあるスキーマをもとに作られます。なので、いじめによってネガティブなスキーマが出来ていると、大人になっても自動思考がそれに伴ってネガティブなものになり、不安や気分の落ち込みと隣り合わせになってしまうわけです。例えば、過去にいじめを受けたことのある成人の反応パターンとして、以下のようなものがあります。

例)

飲み会に誘われる

自動思考: どうせ、何か嫌なことを言われるだろうな

飲み会を断るか、行ってもあまり人と話せない

「自分なんて人と上手くやれない」「人は怖い」というスキーマが強固なものになる

3. いじめ後遺症を克服し、自尊心を高めていくには?

いじめ後遺症は度重なる人間関係のトラウマから形成されるものであり、「〇〇したから良くなる!」というような、そう簡単なものではないと思います。ですが、今の時点で有効とされている方向性をお伝えしたいと思います。

前提: 専門家との信頼関係

前提として、「信頼関係」があると思います。トラウマにより人間不信となってしまっている状態の中、変化を急がず、時間をかけて一緒に歩いてくれる相手が重要です。プライベートの関係でそれを築くのも良いかもしれませんが、場合によっては依存的な関係になってしまうこともあります。適度な距離を保ちながら、専門的な立場から話しを聞いてくれる精神科医や心理カウンセラーと長期的な関係を築くことがおすすめです。

以下では、専門家との信頼関係を築いたうえで、考えられるアプローチをご紹介していきます。

①リフレーミング

リフレーミングとは、思考の枠組みを変えることを言います。例えば、「いじめられて悲惨な目にあった」「自分は誰とも良い関係を築けない」と思っていたとします。

しかし、カウンセラーと話しをしていく中で、「いじめられた経験があるからこそ、人の気持ちが分かるようになった」「人としての深みを手に入れた」と考えることができるようになるかもしれません。被害者としての自分から、苦難を乗り越えた自分として、いじめの経験を再定義することで、経験を受け入れたうえで前に進みやすくなることがあります。

②認知行動療法

認知行動療法とは、思考や行動にアプローチすることで、自ら気分を調整していくことを目指す科学的な心理療法です。

認知行動療法では、相談者とカウンセラーが協働しながら問題に当たっていく、「協働的経験主義」が重視されています。また、仮設と検証を繰り返す中で、現実生活にアプローチしていくのも特徴です。

今の「反応パターン」には過去のいじめから影響を受けているスキーマが関連している可能性が高いかもしれません。しかし、カウンセラーとともに「今の生活」「今の生活の中で生じるネガティブな自動思考」に焦点を当てていく中で、今の生活の中での適応を目指していきます。そして、それは過去のネガティブなスキーマを少しずつ溶かしていくことにもつながっていくわけです。

③EMDR

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing: 眼球運動による脱感作と再処理法)は、1989年にアメリカの心理学者であるシャピロが考案した、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療法です。

トラウマ的な出来事を頭の中でイメージしてもらいながら、セラピストが相談者の目の前で指を一定速度で動かし、脳を直接的に刺激する中で、相談者が本来持っている健全な情報処理のプロセスを引き出すというもの。

科学的データに基づいた治療法であり、特別な訓練を完了しているセラピストでないと実施することができません。あくまで相談者本来の情報処理を引き出すことが目的であるため、洗脳のような現象は生じず、いつでも治療をストップすることができます。PTSDに限らず、うつ病や社交不安症、パニック症などへの効果も実証されつつある点も、今後期待ができますね。

④SST(社会的技能訓練)

SST(Social Skills Training: 社会的技能訓練)は、ロールプレイという技法を通して対人場面を演じる中で、より適切な表現を学んだり、自分の気持ちや他者の気持ちに気づいたりすることを目指す方法です。

いじめ後遺症の状態にある方の多くは、人間関係に強い不安を感じていると言われています。「自分は人間関係が苦手だ」と感じていることも多いようです。そこで、SSTという安全な場の中で実際にコミュニケーションを取ってみる中で、少しずつ自信をつけていけることが期待できます。また、過去の対人場面を演じることで、それが大きな気づきとなることもあるようです。

⑤似た境遇の人と話す

いじめや不登校、いじめ後遺症などを専門にされている精神科医、斎藤環医師によると、いじめを克服するうえでキーとなるのはピアサポーターの存在であるようです。

ピアサポートとは、同じ苦しみや障害を味わった人同士が集まり、話し合いを行ったり活動を行ったりすることを示します。

つまり、「人の中で受けた傷は、人の中で癒す」ということでしょう。似た経験を持つ人同士が集まり、語り合うことは、とても大きな安心感や孤独感からの解放を助けるのではないでしょうか。

4. まとめ

今回の記事では、いじめ後遺症と自尊心の関係、いじめ後遺症を克服して自尊心を回復させる為の方法などをお伝えしました。ポイントとしては、以下になるのではないかと思います。

・長期的に話を聞いてくれる専門家と信頼関係を築く

・専門家とカウンセリングを継続しつつ、似た境遇を持つ人との話し合いの場を持つ

・いじめの経験を再定義し、少しずつ前を向けるようにしていく

キーワードは、「焦らず少しずつ」であるように思います。本来の自分が持っている素敵な部分を活かしながら、心の青空が戻ってくるのを楽しみに待ちましょう。「雨降って地固まる」という言葉があるように、辛いことがあった分、その経験が自分自身を一回り大きなものにしてくれるのではないでしょうか。