大人の「いじめ後遺症」とは?

いじめ後遺症

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臨床心理士のにっしーです!新宿・横浜の二箇所にていじめ後遺症に特化した心理カウンセリングを、認知行動療法の知識をもとに行っています。詳しくは、心理相談室HappyFeelingのホームページをご覧ください。

今回の記事では、大人の「いじめ後遺症」という概念について詳しく解説していきたいと思います。この記事を読むことで、大人のいじめ後遺症への理解を深めることができるでしょう。

1. 大人の「いじめ後遺症」とは?

過去にいじめられた経験があり、その時の記憶が現在の「思考パターン」や「行動パターン」に影響しており、苦しんでいる場合、いじめ後遺症に該当する可能性があります。

例えば、社会に出ても人を信頼できず、いつも自信がない(思考パターン)、人の集まりには誘われても行かないようにしている(行動パターン)などです。

・小学校、中学校、高校でいじめを経験している

上記のような出来事はもちろん、

・大学、大学院

・会社内

などの大人になってからのいじめでも、いじめ後遺症を引き起こしてしまうことがあります。

・学校を卒業する

・転校する

・退学する

・部署を移動する

・転職する

上記のように、「環境」が変わればいじめは解決することが多いと考えている人も少なくないのではないでしょうか。

しかし、いじめられた経験は、環境が変わってからも本人の心理状態として、深く残り続けることも多いのです。

2. 大人のいじめ後遺症の原因

大人のいじめ後遺症の原因は、「過去にいじめられたことがある経験」です。

しかし、「いじめ」という言葉はどこからどこまでがいじめで、どこからどこまでがそうではないのかという線引きが難しいですね。

また、「いじり」という言葉が、「いじめ」を絶妙にカモフラージュしているように見えて、僕はこの言葉があまり好きではありません。

いじめ後遺症を引き起こすことのある「いじめ」の定義は、「本人が不快感を感じているかどうか」に尽きるのではないかと思います。

また、引きこもりや不登校、いじめ後遺症についての研究を長期的にされている精神科医、斉藤環医師によれば、「いじり」と「いじめ」の違いは、「双方向性の有無」にあるとのことです。

例えば、仲の良い友達同士が、互いにふざけながらお互いのことをからかい合うことなどがありますよね。この時、

・互いにからかい合っている(双方向性あり)

・互いに嫌な気持ちになっていない(ネガティブ感情なし)

上記のような条件が揃っていれば、問題はないのではないでしょうか?

しかし、

・一方のみがからかっており、他方はそれに言い返していない(双方向性なし)

・からかわれた方は不快感を感じている(ネガティブ感情あり)

という条件になると、これは「いじめ」に該当すると思います。また、条件に関わらず、本人が嫌な思いをしているかどうか。それが最も大切ですね。更に、これが「1対多」になると、いじめられている側が感じる恐怖感は計り知れないものになります。

事後対応だけでなく、積極的に予防していく必要のある「人間の罠」。これがいじめです。

3. 大人のいじめ後遺症の症状

いじめを経験すると、長期的に以下のような症状に悩まされることがあります。

・フラッシュバック

→トラウマ状況が映像として頭の中で再生される。

・自傷行為

→リストカットをはじま、自分で自分を傷つける行為。

・反すう思考

→繰り返し頭の中でネガティブなことを考える。

・自己達成予言

→良くない結果を予測し、それが原因となって予測していた良くない結果を自分で現実化してしまう。

・社会的場面の回避

→意図的に人と会う場面を回避してしまう。

・覚醒亢進症状

→他者といる時に、緊張状態が維持されてしまい、ビクビクしてしまう。

・解離症状

→体と心が分断されたような感覚に陥る。特定のタイミングにおける記憶を失うことも。

・自己嫌悪や自己否定感

→自分自身のことを否定的に見ている。

・人間不信

→人のことを信じられない。一度良い関係が築けても、そのうち裏切られる気がしてしまう。

・情緒不安定

→落ち込んだり、不安になったり、活発になったりと、気分の変動が激しい。

・信頼感や自尊心の欠如

→人と信頼関係を築くことが難しく、自分に価値があると感じられない。

・他人の言いなりになる

→人に良いように使われてしまう。

・アルコールやドラッグへの依存

→お酒を飲むことをコントロールすることができなくなる。ドラッグに手を出す。

・永続的な怒りや不安

→自分の内に、ずっと怒りを抱え込んでいる。

症状は人によって異なりますが、「自分に自信が持てない」「人間関係に不安を感じている」という2点は共通しているようです。

例えば、会社で理不尽に感じることがあっても、自分の意見を伝えられないという悩み。過去にいじめられた経験がある場合は「無条件に自分が我慢しないといけない」と思い込んでしまい、他人の言いなりになってしまうことなどが考えられます。また、自分は悪くないのに、自分が悪い、周囲の人が自分を悪く思っているように感じてしまうこともあるようです。

つまり、いじめ後遺症の正体は「思考の癖」なのです。しかしそれは本来の自分のものではなく、他人から刷り込まれたものです。

4. 過去のいじめが原因で発症確率が増える精神疾患

実は、いじめられた事がある人は、そうでない人に比べて精神疾患に罹ってしまうリスクが高いという研究があります。いじめられた経験が原因になりやすい疾患には、以下のようなものがあります。

うつ病

うつ病は、気分障害に分類される精神疾患です。

・顕著な気分の落ち込み

・普段楽しめていることが楽しめない

などの精神症状に加え、

寝付けない、早朝に起きてしまう、眠りが浅いなどの睡眠障害

食欲不振、過食傾向

すぐ疲れる

といった身体症状が一定期間続いており、日常生活に支障が出ているのがうつ病の特徴です。

複雑性PTSD

複雑性PTSDは、「人間関係の中で繰り返し受けた傷」により長期的に精神的な苦痛を受けることを特徴とする精神疾患です。症状としては、以下のようなものがあります。

・再体験症状

・回避・麻痺症状

・過覚醒症状

・認知・気分の陰性変化

・感情の波が激しい

・否定的な自己認識

・人間関係を維持するのが困難

複雑性 PTSDは比較的新しく分類された精神疾患であり、国際疾病分類であるICD-11では明確に記載されているものの、精神疾患の統計マニュアルであるDSM-5には記載されていません。しかし、複雑性PTSDの治療を行なっている専門機関はあるようです。

多くの場合、「幼少期の両親との関係性」が病因となりますが、「人から受けた傷」という意味では、いじめられた経験により複雑性PTSDを発症することも大いにありえます。

社交不安症

社交不安障害は、人が集まる場所に言ったり、人と交流したり、人前で話したり会食したりすることに強い不安を覚え、回避してしまうことを特徴とする疾患です。

「人からどう思われているか」という自己注目が要因になっていることも多く、投薬と併行して認知行動療法を行うことが有効とされています。柔軟な思考を身につけたり、時に不安を感じる場面に挑戦してみる中で、少しずつ「とらわれ」を薄めていきます。

パニック症

パニック症は、精神的な不安が原因で突発的に発作(パニック発作)が生じることで、「生命が危険にさらされる」と認識し、予期不安によって不安を感じる状況を避けてしまうことを特徴とする精神疾患です。

電車の中で生じるパニック発作、人が集まる場所で生じるパニック発作などがあります。こちらも投薬と認知行動療法がスタンダードな治療法とされています。

5. 成人いじめ後症候群APBSという概念

正式な診断名ではありませんが、アメリカでは「成人いじめ後症候群(APBS)」という概念が広まりはじめています。

過去にいじめられた経験を持つ大人が、成人後の生活の中で人と信頼関係を保つことが難しく、自尊心の低さに苦しむのがAPBSの特徴です。

「人間関係による心の傷が精神的に自分を苦しめる」という意味では複雑性PTSDとも重なる部分がありますが、

・APBSは複雑性PTSDと違って診断名ではない

・APBSの場合は感情の起伏の激しさや他者への攻撃性が爆発することが少ない

などの違いがあります。APBSは「外」からは分かり辛く、当事者が長期的に苦しみを一人で抱え込みやすい、とも言えます。表面化しないので見つけてもらいにくい。自分で自分を保つ力を維持できているからこその苦しみというものもあるのではないでしょうか。

6. まとめ

今回の記事では、大人のいじめ後遺症について解説させていただきました。日本では、なぜかいじめることよりもいじめられることを「恥」とする傾向がありますね。ですが、実はこれは日本という集団が抱えている「認知の歪み」かもしれません。

僕は、いじめられる経験をしたことのある人は、単なる「被害者」ではないと思っています。いじめを経験した人は、人としての深みが増しているのではないかと思うのです。すぐには前を向けなくても、少しずつ前を向く手助けができるように、僕も一生懸命心理学を学んでいきます。