- 就労移行支援はどのような「からくり」で成り立っているの?
- 就労移行支援はからくりを利用した闇深いビジネスって本当?
障害をお持ちの方が国からの補助を受けながら就労を目指せるサービスに就労移行移行支援があります。
就労を目指す障害をお持ちの方にとって魅力的なサービスですが、行政のからくりを利用した闇深いビジネスであると考える方もいるようです。
そこで、本記事では現役の就労支援員が就労移行支援が儲けている「からくり」を解説したうえで、本当に闇深いビジネスなのかの実態を解説しています。
就労移行支援の利用を検討している方は、ぜひ読んでみてください。
就労移行支援事業所が儲けている「5つのからくり」
まずは、就労移行支援事業所がどのようにして儲けているのか、「からくり」を5つに分けて解説していきます。
就労移行支援は障害者総合支援法によって国が取り決めた障害福祉サービスなので、基本的にはすべての就労移行支援事業所が下記の「からくり」に当てはまります。
儲かるからくり①:国からの給付を得ている
就労移行支援の利用料は、全国一律で以下のように決まっています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯(世帯収入が概ね300万円以下) | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(世帯収入が概ね670万円以下) | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
利用料は生活保護受給の有無や、前年度の世帯収入状況によって変わりますが、どんなにかかった場合でも月々の自己負担額が「37,200円」を超えることはないように設定されています。
また、実質はほとんどの方が無料で利用していると言われています。
では、就労移行支援はどこからお金を得て経営を成り立たせているかというと、国民健康保険団体連合会より、利用料のほとんどを受け取っているわけですね。
上記のような仕組みによって、利用者は経済的負担を少なくし、事業所側は施設の利用料を国から受け取れるようになっているのです。
儲かるからくり②:利用者数が多いほど儲かる
当然、就労移行支援事業所に通っている利用者さんの数が多ければ多いほど、就労移行支援事業所の売り上げは多くなります。
これは、飲食店などと全く同じですね。
儲かるからくり③:利用日数が多いほど儲かる
利用者さんが在籍しているだけでは、就労移行支援事業所にお金が入ることはありません。
就労移行支援事業所では、利用者さんが施設を「利用する」ことではじめて報酬が入るからくりになっています。
よって、在籍者数がどんなに多くでも、多くの利用者さんが欠席をしてしまっていると、儲けは少なくなってしまいます。
儲かるからくり④:就労定着率が高いほど儲かる
就労定着率とは、利用者さんが企業に就職(または復職)をし、6ヶ月以上就労を継続できている割合のことです。
どんなに就職者を多く出している就労移行支援事業所でも、就労定着率が高くないのであれば意味がないと言えますね。
そして、前前年度の就労定着率が、事業所の「利用単価」を決めるからくりになっています。
- 利用単価=利用者さん1人が1日施設を利用した場合の利用料
就労定着率が高い事業所ほど利用単価が高く設定されるようになり、儲かる仕組みになっているわけですね。
儲かるからくり⑤:「行政処分」が少ないほど儲かる
就労移行支援は国から支給を得ることで成り立つサービスなので、行政による監査が入ることがあります。
監査の結果、ルール違反をしている事業所には以下のような「減算」が課せられることがあります。
- サービス管理責任者欠如減算
- サービス提供職員欠如減算
- 個別支援計画未作成減算
ルールを遵守している事業所は減算の対象となることも少なく、結局は報酬へと影響しているわけですね。
ここまでを総合すると、利用者数が多く、欠席が少なく、定着率が高い(利用単価が高い)事業所がより儲かっており、さらにルールを遵守し行政処分を受けていないことが重要であると言えます。
【前提】就労移行支援のからくり自体が悪いわけではない
ここまで、就労移行支援が儲けている「からくり」をお伝えしてきました。
ただ、前提としてお伝えしたいのが、儲けること自体が悪いわけではないということです。
就労移行支援もボランティアで行っているわけではなく、企業としてサービスを提供している以上、儲けを出す必要は当然あるわけですね。
利益がなければ会社を存続させることができず、利用者さんにサービスを提供することもできなくなってしまいます。
では、どのような事業所が問題かと言うと、儲ける「やり方」があまりに汚い場合です。
以下に詳しく解説していきますね。
就労移行支援の「からくり」を不当に利用している事業所の特徴
以下には、就労移行支援の「からくり」を不当に利用していると言える、悪質な事業所の特徴を記載しました。
以下に示すような特徴が見える場合、利用には慎重になったほうが良いと言えるでしょう。
利用者のニーズに関係なく利用を勧める
明らかに利用者さんが持つニーズと事業所の特徴があっていないのに、強引に利用を勧める事業所には注意が必要です。
例えば、以下のような例が考えられるでしょう。
- 利用者さんのニーズ:発達障害への支援を求めている
- 事業所の特徴:発達障害への専門的な支援は行っていない
上記のように、事業所の特徴と利用者さんのニーズが一致していないのに利用を勧めてくる場合、単に「利用者さんを獲得する」という事業所側の都合だけを優先させている可能性があります。
利用者に無理やり通所させる
明らかに利用者さんの体調が良くないのに無理やり通所させようとする事業所は悪質と言えます。
とくに、電話口での対応が乱暴である場合などは、支援員の質が良いとは言えず、非常に問題です。
ただし、利用者さんが安定的に通所することは就職にとってプラスになるので、あくまで支援の一貫として「安定的な通所を促すこと」は決して悪いことではありません。
利益の追求のために無理やり通所を促しているのか、支援の一貫として通所を促しているのかを見極める視点が重要と言えるでしょう。
わざと就職を遅らせる
利用者さんが就職してしまうことで通所による利益が得られなくなってしまうので、わざと就職を遅らせるというパターンもあります。
上記のような対応を行っている事業所は悪質と言えますが、就労移行支援の取り決め上、就職をわざと遅らせることは事業所にとってほとんどメリットがなくなっています。
平成30年に報酬改定が行われ、就職者を多く出し、就労定着率の高い事業所の報酬単価は増えていき、逆に就職者を輩出していない事業所の報酬単価はどんどん下がっていくシステムになったのです。
就職者を出していない事業所は生き残ることが難しくなっているので、わざと就職を遅らせることで利益を追求している事業所は少ないと言えるでしょう。
通所日数を偽って報告している
以下のような虚偽の報告は、就労移行支援事業所としては「論外」な状態です。
- 利用者さんが通所していないのに通所したことになっている。
- サービス管理責任者が不在なのに、在籍していることになっている
過去に上記のような虚偽の報告が理由で行政処分を受けている事業所は、なるべく利用を避けるに越したことはないでしょう。
ほとんどの就労移行支援は悪質ではない理由
ここまで、悪質な就労移行支援の特徴について解説してきました。
ただ、実際は、ほとんどの就労移行支援事業所は正しくサービスを提供しており、悪質ではないので安心してくださいね。
以下に、その理由を解説しました。
からくりを不当に利用するリスクのほうが大きい
就労移行支援は行政の「縛り」の中でサービス提供を行っているので、からくりを不当に利用している事業所は行政処分の対象となってしまいます。
行政処分を受けることのリスクのほうが実際はずっと高いので、ほとんどの就労移行支援事業所は、正しくルールを守って運営しています。
とくに、大手就労移行支援事業所は監査などへの対策がしっかりとしており、書類の管理なども行き届いている傾向にあります。
悪い口コミの多くは「ミスマッチ」が関係している
就労移行支援についてネットで調べると、「ひどい」「意味ない」などのネガティブな書き込みを見ることがありますよね。
しかし、実際はその就労移行支援が本当にひどいのではなく、ミスマッチが原因で低い評価となってしまっていることも多いです。
就労移行移行支援には、以下のような様々な種類があります。
- 総合型:働くためのスキルを幅広く身につけられる。大手就労移行支援に多い。
- 障害特化型:「うつ病」「発達障害」など、障害ごとに特化した支援を受けられる。
- スキル特化型:Webデザインやプログラミングなど、専門的なスキルを学べる。
就労移行支援に通う前に、自身の目的を明確にしておくことが重要と言えるでしょう。
過去の記事では、タイプごとにおすすめの就労移行支援事業所を紹介しているので、よろしければ参考にしてみてください。
就労支援員としての印象
私自身が就労移行支援で勤務してきていますが、ほとんどの就労支援員は利益を追求しているのではなく、日々利用者さんの安定就労のために尽力しています。
少しリアルな話をすると、利用者さんの人数が増えようと、就職しようと、職員の給料に直に影響するわけではありません。
つまり、就労支援員は本当に利用者さんに幸せな就労生活を送ってほしいと思って日々業務に当たっているわけですね。
優良な就労移行支援事業所を選ぶチェックポイント
就労移行支援の中には悪質な事業所も存在しますが、実際はほとんどの事業所が健全に運営をしています。
これから就労移行支援を利用しようと考えている方に向けて事業所選びのチェックポイントを解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
就労実績の高さ
就労移行支援を選ぶ際は、必ず「就労実績」に注目しましょう。
中でも、重要な指標は以下の2つです。
- 就職率:事業所に通う利用者さんのうち、就職を果たしている方の比率。
- 職場定着率:就職後に半年以上勤務を続けている方の比率。
例えば、大手就労移行支援事業所の1つであるパーソルチャレンジ・ミラトレの就労実績を以下に記載しました。
- 就職率:86%
- 職場定着率:95%
就職率の全国平均は約53%、職場定着率の全国平均は約60%なので、かなり高い就労実績を誇っていることが分かりますね。
就労実績は、就労移行支援事業所の公式Webサイトに記載されていることがほとんどなので、チェックしてみると良いでしょう。
「就労実績が高い=結果を出している事業所」ということなので、支援の質も高いことが非常に多いです。
過去の記事では就労実績が高い就労移行支援事業所のみを厳選してお伝えしているので、興味がある方は読んでみてください。
見学時に「アセスメント」をどの程度行ってくれるか
質の高い就労移行支援事業所では、「アセスメント」をしっかりと行う傾向にあります。
- アセスメント=支援員が利用者さんの特徴やニーズについての情報を集め、より効果的な支援策を検討すること。
見学をした際の支援員の対応として、現在の状態や障害の特性、また将来的にどのようになりたいかを詳しく聞いてくれる事業所は、信頼できる確率が高いです。
なぜなら、アセスメントを丁寧に行うことは、利用者さんに質の高いサービスを提供したいと考えていることの現れと言えるからですね。
逆に、見学時にあまりアセスメントを行ってくれない場合、支援への情熱はさほど高くないことを表していると言えるでしょう。
支援員が障害や支援への知識を十分に持っているか
支援員自身の専門性がきちんと担保されているかどうかも重要です。
例えば、業界最大手の就労移行支援事業所である【LITALICOワークス】では、新入社員研修や支援員の専門性を高めるための研修が充実しており、支援員1人ひとりの専門性が非常に高いことで有名です。
支援員が支援に関するスキルをどの程度持っているかは就職の成功に直結しているので、見学時に支援員の専門性を見極めることも重要と言えますね。
見学時の雰囲気は自分に合っているか
実際に事業所に見学へ行き、雰囲気を肌で感じることは非常に大切です。
とくに、以下のような点を意識すると良いでしょう。
- 事業所の環境は居心地は良いか
- 支援員の対応は親切か
- プログラムの内容は自分のニーズと合っているか
- 利用者さん同士の雰囲気は良いか
見学や体験はどこの事業所でも無料で行っているので、まずは積極的に見学予約を入れ、事業所に足を運んでみるのがおすすめです。
就労移行支援のからくりに関するまとめ
本記事では、就労移行支援のからくりについて解説するとともに、悪質な事業所、優良な事業所それぞれの特徴についてもお伝えしてきました。
ポイントをまとめると、以下のようになります。
- 就労移行支援は国からの助成金を得て成り立っている
- 利用者数、利用日数、利用単価の掛け算で就労移行支援事業所の儲けが決まるからくり
- 就労移行支援が儲けるのは必要なことだが、「やり方が不当」な事業所には注意
- 実際はほとんどの就労移行支援が健全に運営している
「どの就労移行支援事業所を選ぶか」が非常に大切なので、必ず見学に足を運び、事業所の雰囲気を目で見て確かめるようにしましょう。
過去の記事では主要都市ごとのおすすめ就労移行支援事業所も紹介しているので、気になる方は合わせて読んでみてください。