対人関係療法とは?日本人にこそ必要なアプローチです。

心理学

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今回の記事では、「対人関係療法とは何か?」ということについて詳しく解説していきたいと思います。

誰もが、人間関係に関する悩みを持つことがありますよね。かの有名なアドラー心理学でも、

すべての悩みは人間関係の悩みである。

と言われています。

それほどに重要な人間関係を改善し、心の健康を取り戻せるようにするアプローチが対人関係療法です。

詳しく解説していきますね!

1. 対人関係療法とは?

対人関係療法とは、米国のクラーマン博士らによって開発された、短期精神療法です。

対人関係では、人間関係の問題が精神的な問題を引き起こし、それらを改善することにより心の健康も取り戻すことができると考えます。

うつ病の治療法として開発されたのが発端であり、治療効果も科学的に検証されています。また、現在ではうつ病のみならず、摂食障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)への効果も認められるつつあるようです。

アメリカ精神医学会のうつ病治療のガイドラインの中でも有効な治療法として位置付けられるなど、有効性か認められています。

ちなみに、日本における対人関係療法の第一人者は水島広子医師であると言われています。

2. 対人関係療法の歴史

対人関係療法の起源をたどると、「新フロイト派」と呼ばれる精神医学者たちの貢献が大きいとされています。

新フロイト派の代表的な心理学者は、フロム・ホーナイ・サリバンなどです。彼らは、精神分析の創始者であるフロイトから決別したユングとアドラーのうち、どちらかというとアドラーの考え方を継承した学者たちであると考えられています。

従来の精神分析との違いは、個人内の無意識や性的欲動(リビドー)よりも、実生活での社会的役割や対人関係に焦点を当てている点にあります。

そして、上記の新フロイト派の理論に基づいて、うつ病の短期精神療法としてアメリカのクラーマン博士らが開発したのが、対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy)です。

3. 対人関係療法のポイント

ここでは、対人関係療法の中でもとくに重視されているポイントについてお伝えしていきたいと思います。

「重要な他者」との関係を重視

対人関係療法では、「親密さ」を基準に、人間関係を第一層〜第三層に明確に分けます。

第一層・・配偶者、家族など、最も親密な関係の人。

第二層・・友人・親戚など、中程度の親密性を持つ人。

第三層・・職場の人、たまに会う知り合いなど。

上記のうち、第一層に入る人のことを「重要な他者」と呼びます。そして、対人関係療法ではこの重要な他者が精神的健康の鍵を握っており、最も焦点を当てるべき存在であると考えます。

「現在の問題」に焦点を当てる

対人関係療法では、過去の問題ではなく、直接手を加えることができる、「現在の問題」に焦点を当てます。現在の重要な他者との関係の中でどのような「コミュニケーションのズレ」が生じているのかを分析したうえで、実際に相手に対してどのようにコミュニケーションを取ったら良いのか考え、改善のための行動も取っていきます。

4. 対人関係療法の4つのテーマ

ここでは、対人関係療法の中で扱われる4つのテーマについて解説します!

喪失体験

1つ目が、「重要な他者」を死別や離婚などによって失った時の喪失体験です。大切な存在を失った時には、しっかりと悲しみに暮れ、自然に自分の中で納得していくのを待つ必要があります。しかし、現実を否認し、この悲哀のプロセスを飛ばしてしまうことにより、後になってもっと大きな心の問題へと発展してしまうことがあるのです。ここでは、きちんと悲哀のプロセスを進めるよう援助するのが、対人関係療法の役割になります。

相手と自分の「期待のズレ」

重要な他者との不和は、「期待のズレ」によって生じます。例えば、以下のような時に「ズレ」が生じていると言えるでしょう。

主婦Aさん: 「夫には、子育ても協力してもらいたい・・!」(子育ての大変さを分かってほしい)

夫Bさん: 「自分は仕事を頑張ってるんだから、子育ては、ある程度妻に任せたい!」(仕事の大変さを分かってほしい)

それぞれの言い分があるのですが、互いの期待にズレが生じてしまっていますよね。ここで、お互いに自分の主張だけを通そうとしてしまっていたり、逆に「どうせ分かってくれない」と諦めて、コミュニケーションが不足してしまっていたりすると、その溝はどんどん深くなっていきます。

対人関係療法では、悪循環となっている「コミュニケーションのパターン」を分析したり、コミュニケーションそのものを促したりすることで、問題解決を図ります。

役割の変化

・昇進して管理職に就いた

・結婚して「既婚者」になった

・転職をして「新人」になった

上記のような役割の変化は、それが良い変化であったとしても、とても大きなストレスとなり得ます。

人は社会的な生き物なので、自然に「社会的役割」を持っているのです。赤ちゃんには赤ちゃんの、大人には大人の社会的役割があるわけです。

環境やライフステージが変わることで、人は社会的役割の変更に対応しなければならなくなります。その時に上手く移行することが出来れば良いのですが、うまくいかないと、変化に対応出来ず、ストレス過多になり精神疾患を発症してしまうことなどがあります。

とくに、新しい役割には不安を感じやすく、古い役割は理想化しやすい、という傾向があるようです。

「今の人間関係ではやっていく自信がない・・前はあんなに恵まれていたのに・・」という考えにとらわれてしまうわけですね。

対人関係療法では、過度な思い込みにバランスを持たせ、過去の理想化を和らげ、現在の状況のポジティブな面を認識していけるよう促していきます。

孤立

これは、そもそも対人関係がない状態です。自分にとって「重要な他者」は誰だろう?と考えみた時に、思いつかない場合はこれにあたるかもしれません。

背景に対人関係のトラウマがあることで、人と接することに恐怖心を抱くようになってしまい、孤立してしまっているケースもあると思います。

この場合、対人関係療法ではまずはセラピストが「重要な他者」になる、という道が考えられます。そのようにして他者への信頼を回復した上で、少しずつコミュニケーションを外部にも広げていけるようにしていくのです。

5. 認知行動療法との違い

対人関係療法は、認知行動療法との親和性の高い心理療法であるとされています。というのも、どちらも比較的短期でのアプローチを基本としていることや、効果検証がしっかりとなされていることなどが共通しているからです。

例えば、認知行動療法の第一人者であるデビット・バーンズによる著書、「フィーリングGoodハンドブック」の中でも、対人関係の秘訣が解説されています。コミュニケーションは「行動」であるため、対人関係療法は認知行動療法的な要素を多く含んでいるのではないかと思います。

ただ、認知行動療法は個人の思考(ものの捉え方)や個人の行動パターンなどに焦点を当てますが、対人関係療法では関係性そのものに焦点を当てたり、コミュニケーションのパターンに焦点を当てていたりするので、そこが違うところかと思います。

つまり、認知行動療法は個人の思考や反応に着目しますが、対人関係療法では二者間の不具合に着目していると言えます。

6. まとめ

いかがでしたでしょうか。今回の記事では、対人関係療法の概要について、詳しく解説しました。日本人は、「察すること」を大切にしていますよね。ただ、その「察し」が必ずしも真実を反映しているとは限らないと思います。

なので、互いに誤った「察し」をしてしまい、コミュニケーションのズレが生じてしまうことは良くあるのではないかと思います。

日本人にこそ、対人関係療法は大切です。わかったつもりにならず、また「どうせ分かってくれない」と思わず、はっきりと言葉で表現することは、親密な人間関係のきっかけになるのではないでしょうか。

参考: 自分でできる対人関係療法/水島広子著