認知行動療法とは。専門書を読まないと分からないような、本格的な知識を解説します。

心理学

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今回の記事では、認知行動療法とは何か、詳しく解説してみたいと思います。ネットで「認知行動療法」と調べれば、表層的な知識は得られると思います。ですが、専門書を読まないと認知行動療法についての深い知識は得られません。ここでは、少し踏み込んで認知行動療法を学びたい人に向けて記事を書いています。精神科業界では主流の心理療法となっている認知行動療法ですが、「そもそも心理療法って?」「認知行動療法って、結局何をするの?」と思う方も多いのではないでしょうか。今回の記事では認知行動療法を受けてみたい人、認知行動療法を治療者として実施したい人どちらにも有益な情報になっていると思います。

 

  1. そもそも心理療法って?

認知行動療法は、数ある心理療法のうちの1つです。とここで、「そもそも心理療法ってなんだ?」という疑問が湧いてきますよね。心理療法を一言でいうと、「対話によって人の感情や認知や行動を変える治療法」のことです。薬や化学物質を使うことなく、人の内面を変える治療法の総称ということになります。因みに、「心理療法」という言葉と、「精神療法」という言葉の2通りありますが、実質的には2つとも同じ意味です。「心理療法」という言葉は心理学の中で発展してきた言葉で、「精神療法」という言葉は精神医学の中で発展してきた言葉であるという違いだけです。

 

2. 認知とは

さきほどの文章の中で、感情・認知・行動という言葉が出てきましたよね。「感情」や「行動」という言葉は一般的に耳にしますが、「認知」っていう言葉は日常生活の中ではそんなに使わないんじゃないでしょうか。

 

認知」という言葉は、「ものごとの捉え方」「認識すること」を意味します。例えば、目の前にりんごがあるとします。りんごを最初に識別するのは、「目」です。目にりんごが映り、その電気信号が脳の視覚野に送られ、更に言語野に送られ、そこではじめて脳は「あ、りんごだ」と目の前にあるものがりんごであると認識しますよね。このプロセスが「認知」です。認知の働きがあることによって、目の前にある赤くて丸い物体のことを「りんごである」と意味付けすることができるのです。

 

認知行動療法では、認知と感情を分けて考えます。認知はものごとへの意味付けのことを言いますが、感情は、「嬉しい」とか「楽しい」とか、「悲しい」と言ったように、一言で表せるのが特徴です。認知行動療法では、「どのような認知を働かせるかが、その後の感情を決める」と考えます。認知の結果が感情であり、感情の原因は認知であるということです。

 


  1. 認知行動療法の歴史

「認知行動療法を説明するのって、けっこう難しい・・」僕は以前からそう感じていました。その理由は、認知行動療法の中にも色々な考え方があるからです。色々な考え方はあるけど、さまざまな技法に共通するエッセンスのようなものはたしかにある。そのエッセンスを説明するためには、認知行動療法ないしは心理学の歴史をご紹介するのが一番早いと思いました。

 

3-1. 心理学派の論争

心理学と一口に言っても、実はいろんな学派があります。多分、一番有名な心理学派は、フロイトの精神分析ではないでしょうか。これは、人の心には「無意識」という領域があり、無意識を抑圧しておくことが、神経症の原因であると主張した学派のことです。夢分析なんかも有名ですね。

 

この精神分析に異を唱えたのが行動主義という学派です。行動主義学派が主張したのは、以下のようなことです。

 

心理学は科学であるべきだ。科学である限りは、“心”などという目には見えないものを研究対象とすべきではない。心理学は、心ではなく、行動を研究対象とすべきである

 

心って、目に見えませんよね。行動主義の学者たちは、そんな不確かなものを追ってもしょうがないと考えたのです。行動を研究することで、人のことを深く知ることができるのではないか。

これが行動主義の考え方であり、そして、行動主義が進化を遂げて、いずれ認知行動療法へと発展していくのでした。

 

3-2. 認知行動療法のエッセンスは、「科学性」「実証性」

心理学の歴史を交えつつ解説してきましたが、つまりここまでで言いたいことは、認知行動療法は行動主義から派生した心理療法であるということです。そして、認知行動療法に流れるエッセンスは何かというと、「科学性」「実証性」ということになります。

 

認知行動療法の「ひいおじいちゃん」にあたる行動主義は、人間の心を科学的に研究するために、心を研究することをやめ、行動を研究することにしました。行動なら目に見えますし、数量化できますからね。

 

この流れを汲んでいる認知行動療法は、もちろん目に見える結果を重要視し、科学性・実証性を重要視します。このように、根拠を示した治療を目指すことを心理学や精神医学では「エビデンス・ベースド・メディスン」(根拠に準じた治療)というのですが、認知行動療法は数ある心理療法の中で最もエビデンス・ベースド・メディスンを実践している心理療法であると位置づけられており、心理学が最も進んでいるアメリカなどでは、認知行動療法が保険適用の対象となり、最も効果の高い心理療法であるとされています。

 


  1. 認知行動療法の種類

「認知行動療法とは何ですか?一言で教えてください」と聞かれたら、僕はなんて答えるか考えてみました。たぶん、このように答えると思います。

 

認知や行動を変えることで、感情や気分、体の健康を維持・増進する心理療法です

 

認知行動療法では、主に「認知」と「行動」にアプローチします。どちらか1つにアプローチするなら分かりやすいのに、アプローチする対象が複数あるからわかりづらいんですよね。それには、認知行動療法の発展過程が関係しています。認知行動療法の発展初期である第一世代から、第二世代第三世代と、徐々に進化してきたのが認知行動療法なのです。最初は単に「行動療法」と言われていたのが、進化の中で「認知行動療法」と呼ばれるようになっていったのです。ここでは、第一世代から第三世代まで、認知行動療法の進化の過程を解説します。これを読めば、認知行動療法への理解が一気に深まるでしょう。

 

4-1. 第一世代の認知行動療法

第一世代の認知行動療法は、いわゆる「行動療法」を示します。まだ頭に「認知」がついていない時期です。行動を変えることで、より適応的に生きていくことを目指す心理療法が、行動療法(=第一世代の認知行動療法)でした。ここでは、第一世代の認知行動療法に関係する学者や理論、法則について、順を追って解説していきます。第一世代の認知行動療法は、「長老」のようなもので、歳こそとっていますが、未だに認知行動療法全体に対して強い影響力を持っています。よって、第一世代の認知行動療法をよく学ぶことが、認知行動療法を学ぶうえでとても大切です。

 

〇スキナーと、行動の強化の法則

この時期の代表的な学者の名前として、スキナーを外すことはできません。スキナーは鳩を被検体にして、「行動の強化と弱化の法則」を発見した、「世界一の心理学者」と称される人です。

 

強化というのは、「行動を増やす」手続きのこと。弱化というのは、行動を減らす手続きのことを示します。

 

スキナーは、行動の後に良い出来事(=強化子)が起こると以後その行動が増え、悪い出来事(=嫌子)が起こると以後その行動が減ることを発見しました。

 

スキナーによる「強化の法則」は、人間のあらゆる行動を説明することができます。私たちが身に着けた行動のほとんどは、「強化の法則」によってできたものだからです。

 

例えば、「ご飯を食べる」という行動は、「空腹を満たせる」という良い結果を得た経験から獲得されたものです。(強化子による行動の強化)

 

「立つ」という行動は、「視野を広げる」という良い結果を得た経験から獲得されたものです。(強化子による行動の強化)

 

私たちが苦手な人を避けるのは、その人と関わることで「嫌な思いをした」という結果を得たからです。(嫌子による行動の弱化)

 

スキナーによる「行動の法則」は、心理療法に限らず、世の中のあらゆるところに応用されています。(サーカス、水族館のイルカショー、そして学校教育・・・などなど。他にも思いつきますか?)

 

行動の強化の法則は、何か特定の心理療法に使われるというよりは、この考え方をベースとして持っておくことが大切です。例えば、メンタル面が安定せず外出がおっくうになってしまった人がいるとします。この人の「外出行動」を「強化(増やす)」ためには、外出のハードルを下げて達成感を味わいやすくしたり、外へ行った結果何か良いことが起こるように工夫したりする(散歩できた日は、近所のカフェでケーキを食べてよい、など)ことが有効です。こういったアイデアのベースとして、「行動の強化の法則」を持っておくのです。

 

〇バンデューラの社会的学習理論

バンデューラは、人は物事を直接経験しなくても、自分以外の誰かを観察して、行動を習得することが出来ることを発見しました。例えば、教室で授業中にうるさくしている生徒のことを担任の教師が恐ろしい声で怒鳴ったとしましょう。それを見ていた生徒のほとんどは、「授業中うるさくする」という行動をとらなくなるでしょう。

 

お手伝いをして、近所のおばさんから飴玉をもらっている女の子がいたとします。それを見ていた男の子は、すすんで近所のおばさんのお手伝いをするようになるかもしれません。

 

このように、自分以外の誰かの行動を見て、新たな行動を獲得することを「代理強化」と言います。この、バンデューラによる社会的学習理論は、SST(ソーシャルスキル・トレーニング)というコミュニケーションのプログラムのもとになっています。SSTでは、グループで、メンバーの誰かが悩ましく思っている人間関係の構図を演じ、学びを得るためにロールプレイが行われますが、ロールプレイで自分以外の参加者が演技をしているのを見て、「今のいいな」「それ、使えそう」と思ったパターンを「盗む」ことができます。この「盗む」プロセスが社会的学習理論なんですね。

 

〇ウォルピによる系統的脱感作法

 

これには、古典的条件づけという由緒ある理論が応用されています。古典的条件付けとは、いわゆるパブロフの犬で有名な「条件反射」のことです。この実験では、最初は肉にしか唾液を分泌させなかった犬が、肉とベルを対提示することで、ベルの音を聞いただけで、犬が唾液を分泌させるようになったという結果が得られています。

 

実は、恐怖症不安障害もこれと同じメカニズムで出来上がるということです。

 

「学校へ行ったらいじめっ子がいた。いじめっ子と学校が条件づけられ、不登校になった」

 

「会社で上司にいじめられた。上司と会社が条件づけられ、会社に行けなくなった」

 

このような具合です。

 

ウォルピによる系統的脱感作法では、一度「条件づけられた」不安を、再度条件づけによって消してしまおうと考えます。

 

会社の例で考えてみましょう。

 

まずやることは、不安階層表の作成です。不安階層表とは、不安の程度が最も低い状況を1、最も高い状況を10として表に記入し、段階的な目標を立てることです。

 

例)不安階層表

10

会社で上司と話す

9 会社で自分の席に座る
8 会社で自分の部署のドアを開ける
7 会社の廊下を歩く
6 会社の入り口へ行く
5 会社の最寄り駅から、会社に向かって歩く
4 会社の最寄り駅周辺を歩く
3 会社の最寄り駅に続く路線に乗る
家から最寄り駅に向かって歩く
家のドアを開ける

不安階層表を作成したら、今度は不安の程度が低い、「1」の状況から順に、頭の中でその状況をイメージします。そして、イメージしながら筋肉をリラックスさせる方法である「筋弛緩法」を行うことで、不安を感じる状況とリラックス状態(筋弛緩)を再条件づけしていきます。すると、不安が徐々に解消されていくということです。

 

〇暴露療法(エクスポージャー)

 

暴露療法(エクスポージャー)とは、不安を感じる状況に身をさらすことで、不安を取り除く技法のことです。さきほどご紹介した系統的脱感作法との違いは、系統的脱感作法がイメージとリラクゼーションを対提示していたのに対し、暴露療法はイメージではなく実際に不安を感じる場面に身をさらすとともに、リラクゼーションは活用しない点です。暴露療法は、単に不安場面に身をさらすだけ、ということになります。例えば、電車恐怖所の人は電車に乗ることによって治療し、広場(人込み)恐怖症の人はわざと人込みに身を投じることによって治療します。

 

暴露療法の背景には、「不安を持ち続けることができない」とういう人間の原則があります。だから、電車の中や人込みに身をさらし、一定時間経過する頃には不安が消失し、不安が消失した状態の自分と、もともと不安を感じていた状況を再度条件づけることで、不安症状を緩和させることが出来るのです。

 

ここまで紹介したのが、第一世代の認知行動療法で使われる具体的な技法たちです。少し長くなりましたが、認知行動療法のベースとなる理論なので、ぜひ覚えておきましょう。

 

4-2. 第二世代の認知行動療法

第一世代の認知行動療法では「行動」がメインテーマでしたが、第二世代の認知行動療法では「認知」がメインテーマとなります。ただし、認知がメインテーマとなったからといって、「行動が無視されるようになった」というわけではありません。気分や感情、体の反応に影響を与えるものとして、行動の他に認知も「追加された」と考えるのが正解です。

 

〇ベックの認知療法

認知行動療法に多大な影響を与えた一人として、スキナーの他にもう1人あげるとしたらアーロン・ベックでしょう。もともとは精神分析家であったベックは、人間理解を「行動の観察と記録」にゆだねる行動療法(第一世代の認知行動療法)に違和感を抱いていました。ベックは、精神科医として多くの患者さんの診察をするにあたって、うつ病患者には特有の認知処理様式があることを発見しました。うつ病患者はネガティブな認知を作りやすいために、結果として気分が落ち込んでしまうと考えたのです。

 

ベックの発見は、「うつ病の認知療法」として確立されていきます。物事に対する認知の仕方を変えることで、“うつ”から解放されるという認知療法は、あっという間に認知行動療法の顔となりました。これまでの行動的な技法と組み合わせて、どんどん発展していくことになります。

認知行動療法の中でも最も主流なのは、第二世代の認知療法の考え方です。人によっては、認知行動療法=認知療法と考えている人もいます。でも実際は、第一世代の行動的技法、第二世代の認知的技法、そしてこれから紹介する第三世代のマインドフルネスがすべて合わさって、認知行動療法です。

 

4-3. 第三世代の認知行動療法

第一世代の認知行動療法では、「行動」がメインテーマであり、第二世代の認知行動療法では、「認知」がメインテーマでした。第三世代の認知行動療法も「認知」がメインテーマなのですが、認知の「扱い方」がこれまでとは少し違います。第二世代では「認知の内容」を扱っていましたが、第三世代では「認知の機能」を扱うようになったのです。

 

〇ネガティブ思考を変えるのではなく、ネガティブ思考と距離を置く、という発想

第二世代までは、ネガティブ思考を見直し、思考記録表などを使って認知の内容を変えることに力点が注がれていました。しかし第三世代では、「いちいちネガティブ思考と関わらない」、すなわち距離を置く、という方法が新たに導き出されました。ただ、「考えるな」と言われても考えてしまうのが人間ですよね。よって、以下で紹介するマインドフルネスが提唱されたのです。

 

〇ジョン・カバットジンとマインドフルネス

思考の内容ではなく思考の機能に注目したジョン・カバットジンは、仏教に代表される「瞑想」の状態が、うつ的な思考と距離を置くことにつながるのではないかと考えました。その後の度重なる研究の末、仏教の瞑想から科学的に技法のみを抽出した、ものとして「マインドフルネスストレス低減法」というプログラムを考案しました。実証研究でも効果が検証されており、「今このとき」に注意を向けることにより、抑うつ的な反すうを食い止める方法の1つとしてマインドフルネスへの注目が集まっています。

 


  1. まとめ

いかがでしたでしょうか。今回の記事では、認知行動療法とは何かについて、詳細に解説をしていきました。認知行動療法と一口に言っても第一世代的な色合いの強いものから第三世代的な色合いが強いものまで幅広いことをご理解いただけたと思います。ただ、「科学的な実証性を重んじている」という点においては、すべての認知行動療法に共通しています。とくに、認知行動療法はうつ病や不安障害への有効性が高いことが分かっています。ただし、「うつ」と一口に言っても色々なタイプのうつがあります。よって、自分に合った最適な組み合わせを見つけることが重要となります。