こんにちは!臨床心理士のにっしーです!今回は、「認知の歪み」という言葉について解説してみたいと思います。
突然ですが、この記事を読んでくれているあなたは、自分のネガティブ思考に悩んだことはありませんか?
・つい、ものごとをネガティブな方向に考えてしまう
・人と自分を比べて落ち込むことが多い
・人から悪く思われていると感じる
・自分に自信がない
上記のような悩みを持つ方にとって、「認知の歪み」について学ぶことは、大きな突破口となるかもしれません!
1. 認知の歪みとは
認知の歪みとは、一言で言うと
「現実を歪んで解釈してしまう思考のクセ」
のことを言います。
例えば、「仕事でミスをして怒られてしまった」という出来事があったとします。
認知の歪みが少ない人は、「やっちゃったな。でも次に生かそう!」と考え、一度は落ち込むものの、落ち込み続けることはなさそうです。
しかし、認知の歪みが強くなってしまっていると、「こんなミスをする自分は、ダメな人間だ。仕事ができない自分は価値がないな」などと、極端に、後ろ向きに考えて、自分で自分を落ち込ませ続けてしまうのです。
なので、①自分はどのような認知の歪みを持っているのかを知り、②認知の歪みを修正していく、というプロセスをたどることで、自ら前向きな気分をつくっていけるようにすることが大切です。まずは1つ1つ、認知の歪みについて学んでいきましょう!
2. 認知の歪みの学問的な背景
認知の歪みは、認知行動療法の第一人者であるアメリカの精神科医、アーロンベックにより発見され、彼の弟子のデイビッドバーンズによって体系化されました。
アメリカの精神科医のアーロンベックは、ペンシルバニア大学病院にてうつ病患者の治療について研究を重ねていました。そして彼は、何千人といううつ病院患者と向き合っていく中で、「うつ病患者には特有の認知の仕方がある(=ものごとの捉え方がある)ということに気づいたのです。
それは、ものごとを極端に、そして後ろ向きに捉える傾向を持っており、彼はそれに「認知の歪み」(cognitive distortion)という名前をつけたのです。
認知の歪みは全部で10個あると考えられているのですが、次の段落でご紹介していきます。
3. 認知の歪みの種類
認知の歪みは、全部で10種類あると言われています。1つ1つ、紹介していきますね!
①一般化のしすぎ
これは、1つの「嫌な出来事」を、「いつも」そうであると考えてしまう傾向のことを言います。
例)
仕事でミスをしてしまった時、「いつも自分はミスをする」と考えてしまう。
②心のフィルター
ネガティブな出来事のことばかりが頭に浮かび、気持ちの切り替えが上手くいかない状態のことを示します。コップに入ったきれいな水に、一滴のインクを垂らしている光景をイメージしてみてください。インクが広がっていき、水全体が濁っていきますよね。これが、心の中で起こっている状態と考えていただけると、分かりやすいのではないかと思います。
例)
・会社で午前中にクレームが入り、その後は1日中「嫌な気持ち」を引きずってしまった。
③マイナス化思考
これは、自分が達成したことや、周囲から褒められたことであっても、「大したことはない」と、素直に受け入れない傾向のことを言います。
例)
・苦労して資格を取ったのに、いざ合格すると、「これくらいの資格を持っている人はたくさんいる。自分は大したことない」と思ってしまう。
④結論への飛躍
結論の飛躍は、明確な根拠がないのに、自分勝手に物事を結論づけたり、推測してしまうことを言います。結論の飛躍には2種類あると言われています。
A. 心の読みすぎ
これは、明確な根拠がなくても、他者の心をネガティブな方向に読んでしまう傾向です。
例)
「職場では、仕事が出来なくて頼りない人間だと思われているんだろうな〜」と考える。
B. 先読みの誤り
これは、物事が悪い方向に進むのではないかと、明確な根拠もないのに思ってしまう傾向です。
例)
「これから受ける面接は、落ちるに違いない」「試験なんて、落ちるに決まってる」「今は恋人とうまくいってるけど、そのうちどうせ嫌われて、振られるんだろうな〜」など。
⑤全か無か思考
これは、物事を白か黒か、0か100かで考えてしまう傾向です。
例)
「異性に振られてしまった。そんな自分は全くもって魅力のない人間だ」と考えてしまう。
→時に振られることもあるかもしれませんが、この人は、人を「完璧に魅力的な人」と、「全く魅力のない人」の二択でしか見れなくなってしまっています。実際は、ある人から見れば魅力的ではないかもしれませんが、またある人から見れば魅力的なのです。
⑥レッテル貼り
レッテル貼りは、自分や人にレッテルを貼り、決めつけてしまう傾向です。
例)
1日ダラダラと過ごしてしまった自分に対して、「自分はダメ人間だ」と思ってしまう。
歩きタバコをする人に対して、「こいつはろくでなしだ」と決めつけてしまう。
→人は過ちをおかしてしまうことも時にありますが、「ダメ人間」や「ろくでなし」であるだけの人は存在しないのです。自分にレッテル貼りをすると、自信を失ってしまいますし、他人にレッテル貼りをすると、その人との生産的なやりとりを最初から放棄してしまい、交友関係が狭まってしまいます。
⑦すべき思考
すべき思考は、色々な物事に対して、「〜すべき」「〜すべきでない」という固定的な味方で見てしまうことです。
例)
「自分は、いつでも良い人で、礼儀正しくあるべきだ」
→これは例外を許さない考え方であるため、どんな時にでも人に気を使ってしまい、憤りや怒りなどを押し込めて、一人でストレスを抱えることにつながってしまいます。
「人は、決して嘘をつくべきではない」
→このように考えていると、嘘をつく人全員に対してストレスをためてしまうことになり、結果として自分自身を追い詰めてしまいます。
⑧拡大解釈/過少評価
拡大解釈は、物事を必要以上に大げさに捉えてしまう傾向であり、過小評価は、物事を軽視して捉えてしまう傾向です。
例)
「ああ最悪だ!遅刻してしまった!社会人として失格、終わりだ」
→もちろん遅刻は避けるに越したことはないですが、人間時に、ミスを犯してしまうこともあります。その出来事を、まるで「世界の終わり」かのように捉えてしまうのが拡大解釈です。
「ダイエット中だけど、ケーキ1個くらい食べても何も変わらないよね」
→「ケーキ1個くらい」と過小評価してしまいますが、1個食べれば、大概は禁欲への意識が薄れ、もっと食べてしまうようになるものです。
⑨感情的決めつけ
これは、自分の感情が、「事実そのもの」だと考えてしまう傾向です。
例)
「自分は今とても不安だ、だから何か悪いことが起こるだろう」
「自分は、今日は勉強をやる気にならない。だからやめてしまおう」
→やる気は、最初は湧いてこなくても、とりあえず行動しているうちに自然に湧いてくるものです。しかし、感情的決めつけが強いと、「やる気がない」ことを理由に、それを打破するための行動を取ることを最初から諦めてしまいます。
⑩個人化または責任の押しつけ
⑩個人化または責任の押しつけ
例)
個人化は、自分が完全に責任を負っているわけではないことを、「自分のせいだ」と考えてしまう傾向です。
例)
隣のデスクの人が、強い音を立ててパソコンのタイピングをしている時、「自分にこの人はイラついているんだ」と思ってしまう。
責任の押し付けは、自分も責任の1つを負っていることを、「相手だけが悪い」と思ってしまう傾向です。
例)子育て中の夫婦の夫が、「ちゃんと教育しないからわがままになるんだろ!」と奥さんを責める
→実際は、夫も子育ての一端を担っており、奥さんだけに子どもがわがままになった責任を求めることはできないのです。
ざっと、10 種類の認知の歪みをご紹介しました。まずは、この中で自分はどの認知の歪みを起こし安いかを知ることが、認知の歪みを直すことへとつながります。
4. 認知の歪みの直し方
ここでは、認知の歪みの直し方について、詳しく解説していきます。認知の歪みを修正することにより、現実を合理的に受け止めることが出来るように
なり、気持ちが楽になり、前向きに生きていくことが出来るようになります。
まず、自分の認知の歪みを客観的に把握することが大切です。その為には何が必要かというと、紙とペンさえあれば十分です!
気分が落ち込んでいる時や不安を感じる時に、紙とペンを取り出してきて、以下で紹介するステップを踏んでみてください。
STEP1. 嫌な出来事を記載する
まず、今の自分を落ち込ませている出来事や、不安にさせている出来事を記載してみてください。ここで重要なのは、感情や思考は交えず、客観的事実のみを記載するということです。
例)仕事でミスをして怒られてしまった
STEP2. 今の感情とその強さを記載する
STEP2. 今の感情とその強さを記載する
感情は、「怒り」「ゆううつ」「落ち込み」「悲しい」など、一言で記載出来る言葉を使用します。「認知」と「感情」をしっかり分けて考えることが重要です。「自分はダメだなぁと思った」というのは、思考です。感情は、その思考の後に生じる「結果」であることを覚えておきましょう。
例)悔しい 80% 落ち込み 90%
※感情は、複数記載していただいて大丈夫です!
STEP3. その時の思考を記載する
ここで、いよいよ「仕事でミスをして怒られた」という出来事が生じた時の「思考」を記載します。因みに、このような時に頭の中で自然に出てくる思考のことを専門用語で「自動思考」と言います。出来事が起きた時、頭の中でどんなことを考えていたでしょうか。思い出せない時は、「こんな風に考えていただろうな」という推測で十分です!
例)「周りの人たちからは、仕事のできない恥ずかしい人と思われているだろうな」
「そのうちみんなにナメられて、職場でいじめられるんだ」
「いつまでたっても、自分は一人前になれない」
※自動思考も、複数記載してOKです!
STEP4. 自分の認知の歪みを特定する
STEP4. 自分の認知の歪みを特定する
STEP3で書いた自動思考をもう一度見直してみてください。先ほど紹介した10個の認知の歪みと照らし合わせてみて、該当する歪みが含まれていないか確認してみましょう。もし該当するものがあれば、自動思考の横に矢印を引き、認知の歪みの名前を記載してください。
例)「周りの人たちからは、仕事のできない恥ずかしい人と思われているだろうな」→心の読みすぎ、レッテル貼り
「そのうちみんなにナメられて、職場でいじめられるんだ」→先読みの誤り
「いつまでたっても、自分は一人前になれない」→一般化のしすぎ、先読みの誤り
※認知の歪みは、1つの思考に対して複数回答しても問題ありません。また、「正しい認知の歪みを特定すること」にこだわりすぎず、「見つけること自体が練習になっている」と考えて取り組んでみてください♪
STEP5. 適応的思考を考える
適応的思考を検討することで、認知の歪みが含まれたネガティブな思考に対して反論し、前向きな、新たな考えをゲットします。先ほど例で示した自動思考に対して、あなたなら何と反論し、どのような新たな考えを見つけますか?適応的思考は気分を改善する上でとても大切な要素ですが、考えるのが難しいという声も良く聞きます。ここでは、適応的思考をより考えやすくするプロセスを紹介します。
①自分のネガティブな思考に反論する
まず、自分のネガティブな思考に反論します。先ほどの例をもとに考えてみましょう。
例) 「いつまでたっても、自分は一人前になれない」→一般化のしすぎ、先読みの誤り
→「いつまでたっても」というのは言い過ぎでは?だって、入社した当初から比べれば、今の自分はどう考えても多くの仕事を覚えている。
※自分が、自分自身の「弁護士」になっているイメージで考えてみましょう!
②ネガティブな思考への反論をもとに、より前向きな思考を考える
例)「入社した当初から今まで、色んな失敗をしながら成長してきた。ということは、これからも失敗しながらも続けていくことで、少しずつ「一人前の自分」につながっていくんだ。プロセスを楽しもう」
STEP6. 感情を再評価する
適応的思考を考えた今、STEP2で記載した感情を、再評価してみましょう。最初に比べて、どのくらい感情が改善しているでしょうか?
例)悔しい 80% → 50%
落ち込み 90% →20%
※やる気 75%
※適応的思考を考えた結果、新たな感情が出てきた場合、それを新たに記載してもOKです!
さぁ、いかがでしょうか?今回ご紹介した認知の歪みの直し方は、認知行動療法という心理療法の中で実際に使われているものです。最初は、自分の思考や感情を書くことへの抵抗感を覚えたり、面倒くさくてあまり書く気にならないこともあるかもしれません。しかし、このワークを習慣化していくことで、着実に一歩一歩、「前向きな自分」に近づいていくことができます。結局、「急がば回れ」という言葉は、心のマネージメントにおいても言えることなのですね。
5. まとめ
いかがでしたか?今回の記事では、認知の歪みとは何かについて解説し、また認知の歪みの直し方についてもお話ししました。①自分の思考パターンを知る、②思考パターンを変えていく、というプロセスを繰り返し練習することにより、「前向きに考える自分」を育てていくことができます。僕は、認知行動療法の第一人者の一人である、デイビットバーンズ博士による書籍、「フィーリンググッドハンドブック」を中心に、今回ご紹介したような知識を学んできました。
気分の調整方法についてより詳しく知りたい方は、原著の方もぜひ読んでみてくださいね♪