- 休職や離職中で、リワークや就労移行支援の利用を検討している
- リワークと就労移行支援の違いがいまいち分からず、判断に困っている
休職や離職をしている方におすすめなのが、生活リズムや人と会うことを維持しながら働くための準備ができる「リワーク」や「就労移行支援」などのサービスです。
しかし、医療機関でのリワークプログラムや一般企業が行政から業務委託されて行っている就労移行支援事業所など数多くのサービスがあり、何が自分に合っているサービスなのか迷ってしまいますよね。
本記事では、「リワーク」と「就労移行支援」の違いについて詳しくお伝えしたうえで、双方のメリット・デメリット、また向き不向きについても解説するので、サービス選択の参考にしてみてください。
本記事を読めば、ご自身がリワークと就労移行支援のどちらに向いているのか明らかになり、正しい選択ができるようになるでしょう。
リワークと就労移行支援の違い
リワークと就労移行支援の違いを理解するには、まずは「リワーク」「就労移行支援」双方の定義や行っている機関について知ることが重要です。
以下にはそれぞれの概要を詳しく記載しました。
リワークとは
リワークとは「Return to work(リターン・トゥ・ワーク)」の略であり、現在休職中にある方が、元々所属している会社に復帰するために準備をするためのサービスを示しています。
また、リワークには広義の意味と狭義の意味があるので、覚えておきましょう。
- 広義の「リワーク」:広い意味で仕事に戻ることを示し、復職だけでなく再就職の準備をするためのサービスも含まれる。
- 狭義の「リワーク」:元々所属している企業に、休職している状態から復職するための準備をするサービスのこと。
リワークには上記どちらの意味も含まれているのですが、一般的にはリワークは元々所属している企業で休職中の状態から復職することを示すことが多いので、「リワーク=元々所属している企業に復職するための準備をするサービス」と理解しましょう。
リワークの対象者
リワークの対象者は、うつ病や不安障害、発達障害などの、精神科や心療内科に通う方であることが多いです。
職場でのストレスが原因で出社が難しくなってしまい、医療機関で精神疾患の診断を受けている方がとても多いですね。
また、近年では発達障害の特性により職場での適応が難しく、二次障害としてメンタルヘルスが損なわれてしまい、休職に至りリワークを利用するというケースも非常に多いです。
「リワークの主な利用対象者はメンタル疾患に関わる方」と覚えておきましょう。
リワークを行っている機関
「リワーク=元々所属している企業に復職するための準備をするサービス」と理解することができましたね。
では、リワークという名前のサービスは、どのような機関で行われているのでしょうか。以下に詳しく記載しました。
医療機関
リワークは、精神科や心療内科に併設した施設にて「リワークプログラム」として行われていることが多いです。
リワークプログラムはあくまで医療行為の一環と見なされており、ものごとのとらえ方(=思考)を柔軟にして気分の改善を図る集団認知行動療法や、対人関係能力の向上を目指すソーシャルスキルトレーニング(SST)などが積極的に行われています。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が運営している職場リハビリテーションを行う機関であり、全国47都道府県に設置されています。
地域障害者職業センターではリワークプログラムを行っており、以下のような支援を提供しています。
- 職場復帰のコーディネート
- 作業課題
- ストレスマネジメントやコミュニケーションに関する講座
作業課題を通して作業能力の向上や集中力の回復等を目指し、各種講座を通して復職後に健康を維持して働くためのスキルを身につけられます。
また、支援員が主治医・企業の担当者と連携を取り、職場復帰に向けた合意形成を図ってくれるのも魅力ですね。
無料で利用することができますが、リワークプログラムの実施時期が決まっていること、参加者の倍率が非常に高いことなどがデメリットとして挙げられます。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は働くうえで何らかの障がいのある方が就職を目指して準備を行う機関のことを示すのですが、現在休職中で復職を目指している方に向けたリワークも行っている事業所が多いです。
就労移行支援事業所には様々なプログラムが用意されており、基本的なビジネススキルを学べるだけでなく、コミュニケーションやストレスマネジメントに関するプログラムも豊富なのが特徴です。
就労移行支援事業所は厚生労働省が民間企業に業務委託することにより成り立っている機関なので、利用料金は無料または、前年度の所得に応じて自己負担上限金額が定められています。
就労移行支援とは
就労移行支援は、病気や障がいにより自分一人で就職することに不安を感じている18歳から65歳までの方を対象とした働くための準備をするための福祉サービスです。
リワークが「復職」を目指して準備をするサービスであるのに対して、就労移行支援事業所は「就職」をするためのサービスであるのが大きな違いと言えますね。
ただ、多くの就労移行支援事業所では「復職」を目指して準備をしたい方もリワークとして受け入れています。
就労移行支援を行っている機関は就労移行支援事業所だけ!
リワークの場合は医療機関・地域障害者職業センター・就労移行支援など複数の機関で行われていますが、就労移行支援を行っているのは就労移行支援事業所だけです。
つまり、現在雇用されている企業への復職を目指す方が通う機関は複数ありますが、就職を目指して準備をするための機関は就労移行支援だけであると言えますね。
リワークと就労移行支援の違いが分かりづらい理由
リワークと就労移行支援の違いがいまいち分からない理由が分かったのではないでしょうか。
障がいのある方が就職を目指して通う就労移行支援事業所の多くではリワークも行っているので、両者の違いがわかりづらくなっているのです。
また、医療機関のリワークであっても、現在離職しており、再就職を目指して準備をしたい利用者さんを受け入れているリワークもあります。まとめると、以下のようになるでしょう。
復職準備(現在休職中) | 就職準備(現在離職中) | |
医療リワーク | ○ | △ |
職業センターのリワーク | ○ | × |
就労移行支援 | △ | ○ |
職業センターではリワークのみを行っているので分かりやすいですが、医療リワークと就労移行支援では、復職を目指したプログラムと就職を目指したプログラムを両方行っているケースもあるわけですね。
リワークと就労移行支援のサービス内容の違い
医療リワークでも就職に向けた準備が行われていることがあり、就労移行支援でもリワークが行われていることがあるとなると、いよいよ違いが分かりづらくなってしまいますよね。
しかし、「何をメインとしているのか」という視点で考えると、自分に合ったサービスが導き出しやすくなります。
- リワーク:復職をメインとしている
- 就労移行支援:就職をメインとしている
上記のように考えると分かりやすいでしょう。
つまり、現在休職中にある方にとって第一の選択肢となるのが医療機関や地域障害者職業センターで行っているリワークであり、現在離職中にある方にとって第一の選択肢となるのが就労移行支援であると言えるでしょう。
リワークと就労移行支援の対象者の違い
リワークと就労移行支援の違いを理解するうえで、「対象者の違い」も重要です。以下に、リワークと就労移行支援の対象者の違いを記載しました。
- リワーク:うつ病や適応障害などのメンタル疾患を抱えた方が対象
- 就労移行支援:身体障害、知的障害、内部障害、メンタル疾患などの幅広い疾患・障がいが対象
リワークの対象者がメンタル疾患を抱えた方に限定しているのに対して、就労移行支援の場合は幅広い障がいに対応しています。
リワークと就労移行支援の制度や法律上の違い
医療機関でリワークプログラムを受ける場合、プログラムへの参加は「医療行為の一環」とみなされ、健康保健の対象となります。
つまり、1回リワークに参加した場合の自己負担額は通常3割負担、自立支援医療制度を利用している場合は1割負担であり、疾患の種類や収入状況によって月々の自己負担の上限額が決まります。
また、医療機関でリワークを行う場合は、主治医の同意が利用条件となります。
対して、就労移行支援の場合は障害者総合支援法に基づくサービスであり、運営元は厚生労働省になります。
生活保護受給の有無や前年度の収入状況によって自己負担料金が異なり、月々の自己負担上限額は無料〜最高37,200円になります。
就労移行支援を利用したい場合は、お住まいの地域の役所の障害福祉課に利用申請を行う必要があるのも特徴です。
リワークと就労移行支援の共通点
ここまではリワークと就労移行支援事業所の「違い」をメインに解説してきましたが、以下では両者の共通点についても触れていきたいと思います。
目指す目標や効果の共通点
リワークも就労移行支援も、職場での「安定就労」を目指している点では共通しています。
復職をしたとしても、就職をしたとしても、職場で体調を崩すことなく、安定して働けるようになる視点は重要ですよね。
サービスやトレーニングの共通点
リワークでも就労移行支援でも、以下に示すようなプログラムは共通して行われています。
- 生活習慣の維持や改善スキル
- コミュニケーションスキル
- ストレス対処スキル
生活習慣に関するスキルやストレスへの対処スキル、コミュニケーション技法などを学び、長期に渡って就労を維持できる状態を目指すプログラムはリワーク・就労移行支援のどちらでも行われていることが多いです。
支援体制やスタッフの共通点
リワーク・就労移行支援のいずれにしても、通所される方の主体性を尊重しつつ、必要なスキルを提供するという支援体制は共通しています。
また、スタッフは看護師、精神保健福祉士、社会福祉士、作業療法士、心理士など、医療・福祉に関する資格を持った方が多いのも特徴と言えるでしょう。
リワーク・就労移行支援それぞれのメリット・デメリット
最後に、リワークと就労移行支援それぞれのメリット・デメリットをお伝えしていきます。
①医療リワークのメリット・デメリット、②地域障害者職業センターのメリット・デメリット、③就労移行支援のメリット・デメリットの3つに分けて解説するので、どのサービスを利用するのが良いかの判断材料にしてみてください。
医療リワークのメリット・デメリット
医療リワークのメリットとして、看護師や心理士などの専門資格を持ったスタッフが多いことが挙げられるでしょう。
医療リワークの場合は「医療行為の一環」と位置付けられるため、認知行動療法やコミュニケーションを高めるためのプログラムであるソーシャルスキルトレーニングなどを専門家が行ってくれることが多いのです。
デメリットとして、利用対象が精神科や心療内科を受診している方に限定されてしまうことが挙げられます。
医療機関でのリワークは基本的にうつ病や適応障害などのメンタル疾患を対象として精神科や心療内科で行われておりますので、身体疾患や知的障害、その他の障害には対応していないケースも多くあるのです。
地域障害者職業センターのメリット・デメリット
地域障害者職業センターでリワークプログラムを受けるメリットは、なんと言っても利用料金が一律無料であることです。
医療機関の場合は健康保険が適用され通常3割負担、就労移行支援の場合は無料〜上限額37,200円が利用料金ですが、地域障害者職業センターの場合は交通費や昼食代を除いて費用がかからないので安心ですね。
デメリットとして、プログラムの運営期間が決まっているので、タイミングが合わなければ利用できないこと、倍率が非常に高いので満員になってしまい利用できないことが多いケースなどが挙げられます。
また、地域障害者職業センターの設置は基本的に各都道府県に1箇所なので、自宅から通えない距離にセンターがある場合は通所が困難でしょう。
就労移行支援のメリット・デメリット
就労移行支援のメリットとして、就職や復職に向けて様々な角度からスキルを身につけられる点が挙げられます。
また、利用対象はメンタル疾患を抱えた方に限らず、身体障害、発達障害、知的障害、内部障害など幅広く対応しており、各障害に特化した就労移行支援事業所も近年広がりを見せています。
就労移行支援の場合は「治療」ではなく「訓練」が基本的な発想としてあるため、PCスキルやビジネスコミュニケーション、軽作業のスキルなど、働くためのスキルを身につけたい方にとくに適しているのも特徴ですね。
デメリットとしては、場合によっては月々の自己負担上限額が37,200円と比較的高価になってしまうことが挙げられるでしょう。
ただ、月々の自己負担上限額は世帯の前年度収入によって変わり、実際はほとんどの方が無料で就労移行支援を利用しています。
就労移行支援について気になった方は、過去の記事でおすすめの事業所を紹介しているので読んでみてください。
まとめ:「復職」ならリワーク・「就職」なら就労移行支援がおすすめ
今回の記事では、リワークと就労移行支援の違いについて解説しました。記事の要約を以下に示します。
- リワークは「復職」が主な目的であり、医療機関・地域障害者職業センター・就労移行支援にて実施されている。
- 就労移行支援は「就職」が主な目的であり、就労移行支援事業所でのみ実施されている。
リワークは色々な施設で行われており、就労移行支援の中でも行われているので両者の違いが分かりにくくなってしまうわけですね。
復職を目指したい方は医療リワークや地域障害者職業センターを優先的に検討し、就職を目指したい方は就労移行支援を優先的に検討すると良いでしょう。