- 就労移行支援は自分でも利用できるサービスなのだろうか?
- 就労移行支援を利用するための手続き等について知りたい
本記事は、上記のような疑問を解決するために書きました。
障害を持つ方が一般就労を目指して「働く準備」を行える障害福祉サービスとして「就労移行支援」があります。
ただ、自分でも利用できるサービスなのか、どのような手続きが必要なのか、気になりますよね。
就労支援員である筆者が詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも就労移行支援とは?
厚生労働省による就労移行支援の定義を以下に記載しました。
就労を希望する障害者であって、一般企業に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、一定期間就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行います。
引用:障害者の就労支援対策の状況|厚生労働省
就労移行支援は、何らかの障害を持つ方が一般雇用での就労に向けて訓練を行うサービスであることが分かりますね。
障害の内容としては、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、視覚・聴覚障害、難病などが含まれます。
ちなみに、「一般就労」には「障害者雇用枠での就労」「現在休職している企業への復職」も含まれています。
就労移行支援事業所ではどんなことをするのか?
就労移行支援には「総合型」「障害特化型」「スキル特化型」といったようにさまざまな特色を持った就労移行支援事業所があり、それぞれ以下のような訓練を行っています。
- 総合型
ビジネスマナー、コミュニケーション、ストレスマネジメントスキル、オフィス系のPCスキル、軽作業スキルなど。
- 障害特化型
ビジネスマナー、コミュニケーション、ストレスマネジメントスキル、オフィス系のPCスキル、障害理解、配慮事項の説明、症状への対処スキルなど。
- スキル特化型
ビジネスマナー、コミュニケーション、ストレスマネジメントスキル、プログラミング、IllustratorやPhotoshopなどのグラフィックソフトの学習、Web制作スキルなど。
どのタイプの就労移行支援でも、ビジネスマナーやコミュニケーション、ストレスマネジメントスキルなどの「長く働くためのスキル」は身につけることができます。
それに加えて、就労移行支援事業所のタイプによってオフィス系のPCスキルや障害理解、IT系のスキルなど得意とする分野が分かれてくるわけですね。
また、履歴書・職務経歴書の添削、面接対策、企業研究などの就職活動のサポートはどの事業所でも行ってくれます。
過去の記事では、総合型・障害特化型・スキル特化型それぞれのおすすめ就労移行支援事業所を紹介しているので、こちらも併せて参考にしてみてください。
就労移行支援の社会的な位置づけ
就労移行支援事業は、2006年に「障害者自立支援法」が施行された際に開始した障害福祉サービスです。
就労移行支援事業が開始する前には、障害を持つ方は福祉施設や作業所などに就労する「福祉就労」が一般的でしたが、工賃が安すぎるなどの問題があったのです。
就労移行支援では障害者雇用を含めた一般企業への就労を目指すため、待遇面での改善が見られたのです。
つまり、障害を持つ方が福祉就労ではなく一般企業に就職する導線となっているのが就労移行支援事業所なわけですね。
2013年に障害者自立支援法は「障害者総合支援法」に改定されたので、現在の就労移行支援事業は障害者総合支援法に基づくサービスであるという位置づけになります。
引用:就労移行支援とは?仕組みや企業が利用可能な助成金についても解説|PERSOL
引用:障害者自立支援法と障害者総合支援法とは?それぞれの特徴についてご紹介!|けあタスケル
就労移行支援を利用する条件
就労移行支援を利用する3つの条件を、以下に記載しました。
- 18歳以上65歳未満である
- 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、視覚・聴覚障害、難病等の障害がある
- 一般企業への就職や開業を希望し、就労可能であると見込まれる
ポイントとしては、何らかの障害により自分の力だけで就職活動を行うことが難しいものの、一般企業への就労を希望していることが挙げられます。
また、就労移行支援の利用が適しているかの判断は、各市町村の障害福祉課が行っているので、自分自身が就労移行支援の利用条件を満たしているか問い合わせしてみると良いでしょう。
また、就労移行支援は現在働いていない方が対象です。
ただ、企業に所属していて「休職中」であり、「復職」を希望している方も就労移行支援を利用できることが多いので、復職準備として活用することもできます。
現在学生であり、学校に所属しながら働くための準備として就労移行支援を利用できるケースもあるので、こちらについてもまずは役所に問い合わせてみるのがおすすめです。
引用:就労移行支援について|厚生労働省
就労移行支援の利用期間
就労移行支援の利用期間は、原則「一生に2年」と定められています。
就労移行支援を利用するには役所で「障害福祉サービス受給者証」が発行されるのですが、受給者証が発行されてから2年に渡って、訓練費の代理支払いを国から得ながら施設を利用できる仕組みになっています。
就労移行支援を利用しても2年間の期限内に就職できなかった場合、市区町村の審査によって期間延長の正当性が認められれば、最長1年間に渡って利用期間を延長してもらえるケースもあるので覚えておきましょう。
就労移行支援を受けられる場所
就労移行支援事業所は、主に以下のような組織が運営しています。
- 民間企業
- 社会福祉法人
- NPO法人
とくに多いのが、民間企業が市区町村から業務委託を受けて就労移行支援事業所を運営しているケースです。
ビルのテナントなどをかりて就労移行支援事業所を運営していることが多く、令和2年10月時点での全国の就労移行支援事業所数は3,301箇所という調査結果があります。
東京都内だけでも300以上の事業所があり、幅広い選択肢の中から自分が通う就労移行支援事業所を選ぶことができるでしょう。
過去の記事でおすすめの就労移行支援事業所を紹介しているので、事業所選びの際にはこちらも参考にしてみてください。
東京に絞って就労移行支援事業所を探したい方には下記記事がおすすめ!
横浜に絞って就労移行支援事業所を探したい方には下記記事がおすすめ!
引用:地域における就労移行支援及び就労定着支援の動向及び就労定着に係る支援の実態把握に関する調査研究|厚生労働省
就労移行支援の料金
就労移行支援事業所を利用する場合、行政が訓練費を代理支払いしてくれるシステムになっているので、個人が負担する額は無料もしくは軽減されています。
生活保護受給の有無や前年度の世帯収入によって利用額が異なるので、以下の表を参考にしてみてください。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯(世帯収入が概ね300万円以下) | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(世帯収入が概ね670万円以下) | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
生活保護世帯や市町村民税が課税されていない世帯は利用料が無料であり、市町村民税が課税されている世帯に関しては世帯収入によって9,700円または37,200円の上限額が定められています。
例えば、就労移行支援の1日あたりの利用料が9,000円であったとして、20日通うと18万円になります。
しかし、上限額が定められているので、どんなに利用しても最大37,200円以上は支払わなくてもよくなるわけですね。
実質、就労移行支援を利用している方の約9割は無料で通っていると言われています。
引用:障害者の利用者負担|厚生労働省
就労移行支援の利用手順
就労移行支援をいざ利用しようとなった時、利用手順を知っておくとスムーズに手続きを進められますし、必要な書類なども揃えておけるので安心です。
以下には、就労移行支援の利用手順をステップに分けて記載しました。
ステップ①:自分に合いそうな就労移行支援事業所を見つける
通いやすい距離にある就労移行支援事業所を中心に、インターネットなどで探してみましょう。
自分の目的に合った就労移行支援をいくつかピックアップしておくのがおすすめです。
過去の記事ではおすすめの就労移行支援事業所をまとめているので、こちらも参考にして決めてみてください。
ステップ②:気になる就労移行支援事業所の見学・体験に行く
インターネットなどで自分に合いそうな就労移行支援事業所をピックアップしたら、Webサイト上に記載されている事業所の電話番号にかけるか、見学の申込フォームなどから見学の予約をしましょう。
見学・体験は無料で行えるので、交通費以外にお金はかかりません。
見学では事業所の雰囲気を実際に目で見て確かめられると同時に、担当者から施設やプログラムの内容等について説明を受けます。
見学を行った後は、後日体験を行うことも可能です。体験では、実際にプログラムに参加して、訓練内容が自分に合っているのか確かめることができます。
複数の就労移行支援事業所で見学・体験を行い、自分が通いたいと思う就労移行支援事業所を慎重に選ぶのがおすすめです。
ステップ③:役所に利用申請を行う
自分が通いたい就労移行支援事業所が決まったら、お住まいの地域の役所に利用申請を行いましょう。
申請方法については、就労移行支援事業所の支援員が案内してくれるので安心してください。
申請時に必要な書類として以下のようなものがあるので、事前に用意しておけるとスムーズでしょう。
- 医師の診断書または意見書
- 自立支援医療の受給者証(持っている方)
- 障害者手帳(持っている方)
上記すべてが必要なわけではなく、障害を持っていることを証明できれば大丈夫です。よって、障害者手帳や自立支援医療を受けていなくても、医師の診断書があれば申請は可能です。
どのような書類が必要かについては、事前にお住まいの地域の役所(障害福祉課)に問い合わせておくとスムーズでしょう。
ステップ④:就労移行支援事業所と利用契約する
利用申請を行ってからは市区町村によって利用が適しているかの審査が行われ、審査に通ると「障害福祉サービス受給者証」が発行され、自宅に郵送されます。
受給者証の発行をもって就労移行支援事業所の利用資格が得られることになるので、実際に通う就労移行支援事業所と契約を交わしましょう。
利用申請を行ってから受給者証が発行されるまでの期間は市区町村や個人によって異なりますが、遅くても1ヶ月ほどで発行されることが多いです。
受給者証が発行されるまでの期間は「実習」として就労移行支援事業所を利用できるケースも多いので、見学に行った際に施設のスタッフに聞いてみると良いでしょう。
就労移行支援を利用してからの流れ
就労移行支援を実際に利用するようになってから、就労を果たすまでの流れを大まかに解説します。
事前に就労までの道筋を描いておけると、いざ訓練が開始してから計画的に就労準備を進めやすくなるでしょう。
個別支援計画書の作成
就労移行支援事業所では、最低3ヶ月に1回「個別支援計画書」と呼ばれる書類を施設の支援員と話し合いながら作成します。
個別支援計画書は、就労移行支援に通ううえで何を目標とし、目標達成のためにどのような取り組みを行うかを可視化できるようにしたものです。
支援員との面談を通してアセスメントを行ってもらい、アセスメントの内容をもとに個別支援計画書を作ってもらえます。
ただ訓練に参加するだけでなく、目的意識を持って通所するために重要な取り組みです。
プログラムを受けて「就労準備性」を高める
就労準備性とは、就職し、企業で働き続けるために必要な能力を段階ごとに分けて表したものです。
具体的には、長期就労を果たすには以下の5段階があるとされています。
- 第1段階:健康管理・病気の管理・体調管理
- 第2段階:生活のリズム・日常生活
- 第3段階:対人技能
- 第4段階:基本的労働習慣
- 第5段階:職業適性
まずは健康管理や生活リズムの安定など基本的な部分をクリアしている必要があり、その上で働くための基礎力や職業ごとの専門スキルを高めていく視点が重要であるわけですね。
就労移行支援事業所では、就労準備性を段階的に高めていけるようプログラムが組まれています。
就職準備
就労移行支援事業所のプログラムを通して就労準備性が十分に高まったら、就職準備を開始します。
就職準備の段階では以下のようなことを行います。
- 自分の強みや弱みを理解する
- 適性のある職業を見つける
- 障害への配慮事項を明確にする
- 休職経験がある方は、休職原因分析を行いこれまでのパターンを明らかにする
- 自分のアピールポイントを明確にする
- 興味がある業界や企業について研究する
とくに自己分析は重要であり、自分の強み・弱みやストレスが生じやすい環境などを支援員と話し合いながら可視化していくプロセスが、就職活動の成功と長期就労に強く影響します。
また、事業所内で実際の就労場面を想定して就労体験を行う「模擬就労」や、企業実習を通して実際の業務を経験できる事業所なども増えています。
個人的には、模擬就労や企業実習を積極的に行っている事業所を選ぶと企業とのミスマッチを防げるので非常におすすめです。
過去の記事では模擬就労や企業実習を積極的に取り入れている就労移行支援事業所を複数紹介しているので、チェックしてみましょう。
就職活動
就労準備の段階で自己分析や興味がある業界・企業について理解を深めたら、いよいよ企業への応募を開始していきます。
就労移行支援では就職活動において以下のようなサポートを行ってくれます。
- 履歴書・職務経歴書の添削
- 面接対策
- 面接同行
障害を企業に開示せずに一般雇用として働くのか、障害者雇用枠で働くのかによっても履歴書の書き方などが変わってきます。
とくに、障害者雇用枠で働く場合は「自身の障害について分かりやすく説明し、どのような配慮が必要なのか」を説明する力が求められるので、支援員が心強いパートナーになってくれるでしょう。
また、就労移行支援事業所に通いながら障害者雇用に特化した転職エージェントを併用し、転職エージェントの指導も受けながら応募書類等を作成するとより確実です。
おすすめの障害者雇用特化型転職エージェントは過去の記事でまとめているので、参考にしてみてください。
定着支援
就職活動を通して企業から見事内定をもらい、実際に働きはじめてからも、就労移行支援事業所は「定着支援」を通してサポートしてくれます。
定着支援は就職後も支援員が定期面談を行って仕事上の悩みに関する相談に乗ってくれたり、企業関係者と「より働きやすい環境づくり」のための調整を行ってくれたりするサービスです。
定着支援は最長3年半受けることができるので、就労移行支援を利用した際は定着支援も併せて利用しましょう。
就労移行支援が早期離職や再休職を予防する効果がある理由の1つに、定着支援があるのです。
まとめ:就労移行支援の利用条件を把握して、スムーズに就職に向かいましょう
本記事では、就労移行支援の利用条件や利用期間、利用の流れなどについて「就労移行支援のイロハ」を詳しく解説しました。
就労移行支援を利用するメリットは「就職できる」ということだけでなく、「一般企業で長く働くスキルを身につけられる」点にあります。
これまで働くことにネガティブなイメージを抱いていた方も、就労移行支援の利用を通してより自分に合った働き方を見つけられるでしょう。
就労移行支援は「自分らしい毎日」に近づくために有効なサービスだからこそ、手続きなどがよく分からなくて利用を断念してしまうのはあまりにもったいないです。
この記事を読んで、スムーズに利用へとつながることを願っています。