安倍元首相の銃撃事件へのショックや不安から自分や大切な人を守るには?今、私たちが出来ること。【臨床心理士が解説】 

心理学

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2022年7月8日。この日は私たちにとって忘れることの出来ない1日となりました。

安倍晋三元首相が、奈良市西大寺東町2丁目の近鉄大和西大寺(さいだいじ)駅前にて参院選の街頭演説中、背後から銃撃される事件が起きたのです。

この事件により、安倍元首相は17:00頃に息を引き取られたと報道されています。

このショッキングなニュースにより、日本中の人々が深い悲しみと不安、恐怖に直面しています。そんな今、臨床心理士である私なりに、まずは自分自身と大切な人の心を守るための方法をお伝えしたいと思います。

記事の前半では、「今、私たちの心の中では何が起こっているのか」ということについて解説し、後半では「自分と大切な人の心を守るための考え方」について解説していきます。

二次的な被害を防ぐためにも、この記事を読んでいただけますと幸いです。

1. 今、私たちの心の中で何が起きているのか?

まずは、今回のようにショッキングなニュースが生じた際、「私たちの心の中では何が起こっているのか?」ということについて解説していきます。

急性ストレス反応

急性ストレス反応とは、人が自然災害や火事、事故、そして事件などの危険な状況を直接的、または間接的に経験した際に生じる可能性のある反応のことです。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

再体験・・ショッキングな状況や怖い場面を、自分の意思とは関係なく、何度も思い出してしまったり、フラッシュバックしてしまい、苦痛を感じる症状を示します。

過覚醒・・気が張り詰めた状態が続き、ちょっとした音でも反応してしまったり、普段よりも物事に集中することが難しくなってしまったりする状態を示します。

感情の麻痺・・喜びや満足感、充実感などの肯定的な感情を得られない状態が続くとともに、感情が平板化してしまったり、感情のコントロールが難しくなってしまったりすることがあります。

回避・・苦痛をもたらした出来事を思い出させるようなものを避けるために、日常生活に支障が出てしまっている状態です。(例:恐怖感を避けるために公共交通機関を利用できなくなる)

急性ストレス反応が生じている場合には、まずは安心できる環境に身をおき、怖かった気持ちや不安等を信頼できる人に話すことが大切です。話を聞く側の人は、とにかく「気持ち」に共感し、肯定的な態度で聞いてあげることが重要となります。

身近に話せる人がいない場合は、最近はオンラインカウンセリングなどもありますので、そちらを利用してみることも1つかもしれません。私も所属している「うららか相談室」では、「数日以内に相談したい!」という方にも対応できると思いますのでおすすめです。

急性ストレス反応が1ヶ月以上続く場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されることがあります。この場合は専門家による治療が必要であるため、上記のような症状がとても強い場合や1ヶ月以上続く場合は、精神科や心療内科を受診してみることが大切と言えます。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、思考や行動にアプローチしていく心理療法である認知行動療法の適用範囲でもあるため、都内で認知行動療法を行なっている医療機関を紹介している過去の記事も載せておきますね。

急性ストレス反応は直接ショッキングな出来事を経験した場合にも生じますが、誰かが被害に遭っている場面に遭遇したり、テレビやSNSなどでそのような場面について報道されている映像などを見た場合にも生じることがあります。

今回の事件はニュースやSNSなどでショッキングな場面を繰り返し映し出されているため、それを見て間接的に反応を起こしてしまうケースも考えられるのではないかと思います。

今不安なのは、自分自身のメンタルがおかしいのではなく、「異常な事態における正常な反応である」ということを覚えておきましょう。

反すう思考

反すう思考とは、繰り返しネガティブなことを考え続けてしまい、自分で自分の精神状態を悪化させていってしまうことを言います。うつ病の維持要因の1つとしても研究が進められており、まずは「思考と距離を置く」ということが大切であるとされているのです。

今回の事件の場合、ショッキングな場面を繰り返し頭の中で再生してしまっていたり、「この先日本はどうなってしまうのだろうか・・」「自分の身にも危険なことが起きるのではないか・・?」などと頭の中で繰り返し繰り返し考えてしまっていないでしょうか?

反すう思考が維持されてしまう要因の1つとして、「繰り返し考えることが役に立っている」と考えてしまうことがあります。危機に備えて考えることは人として正常な機能ですからね。ですが、実際に役に立つのは「計画立案」です。反すう思考と計画立案の違いは、以下のようになります。

反すう思考・・出口がない。

計画立案・・明確な出口に向かっている。

反すう思考は、「出口のない螺旋階段」を延々と歩き続けているようなもの。精神的なエネルギーばかりが削り取られていってしまいます。今不安に感じていることを受け入れたうえで、「今の自分にとって大事なことはなんだろうか」と具体的に考えていくことが重要です。

対象喪失

対象喪失とは、精神分析という心理学派の中で生まれた概念であり、自分にとって大切な存在を失ったことによる喪失体験のことを示しています。「対象」の中にはもちろん身近な家族や友人なども含まれますが、それが愛着を持っていた「物」や、自分にとって重要である「シンボル」であったりすることもあるのです。

もしかしたら、今回の事件は、多くの方にとって大切な「シンボル」の喪失につながっているのかもしれません。政治への賛成・不賛成は人によって色々な意見に分かれると思いますが、とにかく安倍首相の連続在職日数は2012年〜2020年(2799日)と長く、他国のリーダーとの外交風景なども中継されていましたね。

無意識的であれ、多くの国民にとって「私たちのリーダー」というシンボルとなっており、そのシンボルを失ってしまったことへの喪失感は重たいものであるのかもしれません。

また、日本は世界の中でもトップクラスに銃規制が厳しく、「治安の良い国」として知られています。今回の出来事により、「安全な国、日本」というイメージへの対象喪失につながっている可能性もあるのではないかと思うのです。

2. 自分の心をどのように守ればいい?

それでは、本題である「自分の心をどのように守るのか」ということについて解説していきたいと思います。

悲しみ・不安・恐怖を認め、収納し、生活を続ける

今回の出来事は、実際に「異常」な事態であり、そして「悲しい」出来事でした。まずは、不安な気持ちや恐怖心、悲しい気持ちをありのままに認めてあげることが大切です。

<不安対処の4つのステップ>

不安対処の4つのステップとは、認知療法の創始者であるアーロン・ベックが提唱した不安への具体的な対処法です。

①受け入れる

→不安な気持ちを否認するのではなく、まずは「ようこそ不安」と受け入れてあげましょう。

②不安を眺める

→「こんなに不安を感じている自分はダメだ」などとジャッジすることなく、ありのままに不安を眺めます。

③不安を折りたたみ、いつものように過ごす

→不安をなくそうとするのではなく、生活に支障が出ない程度に小さく折りたたみましょう。そして、いつも通り自分の生活を送るのです。

④かすかな希望をいつも見出せるようにしておく

→「今は辛い時ではあるけれど、また良い時が来るかもしれない」と、小さな希望を取り出せるようにしておきましょう。

不安は無理やりなくそうとするのではなく、まずはありのままに受け入れた上で、小さく畳んで日常を続けることが大切なんですね。僕も過去にYouTubeで「不安箱のすすめ」という動画をアップロードしているのですが、これに似た考えであると思います。

また、対象を失ったことへの悲しみを乗り越える方法として、精神分析の創始者であるフロイトによる「喪の仕事(Mourning work)」というプロセスを知っておくことが役に立つかもしれません。

<喪の仕事(Mourning work)>

喪の仕事とは、対象を失ってから普段の日常を取り戻すまでに必要な過程を示しています。

①否認の段階

→自分にとって大切な対象を喪失した時、最初は「そんなはずはない」「信じられない」と否認に走ることがあります。また、自分を置いて行ってしまった相手に対して怒りなどの複雑な感情を抱きます。

②受け入れの段階

→時間が経つと、徐々に対象を喪失してしまったという事実を受け入れるようになります。すると、自分にはどうしようもできないということからくる無力感や無気力感、気分の落ち込みなどを感じるようになります。

③感謝の段階

→更に喪の仕事が進むと、失った対象に対して素直に感謝の気持ちを感じられるようになります。また、懐かしさを感じ、素敵な思い出を味わうこともできるようになってきます。

喪の仕事を行うことは、きちんと「さようなら」の儀式を行うことでもあります。葬儀を行うことは死者を弔うためでもありますが、生きている人々がきちんと喪の仕事を行うためでもあるのかもしれませんね。

僕としては、今回の件に関してどうしても気持ちの整理がつかない場合、誰にも手紙を渡さないことを前提に「感謝の手紙」を書いてみることも1つなのではないかと感じました。

メディアに触れる時間を決める

テレビやSNSなどの媒体は情報をいち早く伝えてくれるというメリットがありますが、繰り返し衝撃的な映像を目にすることにより不安を煽ってしまうというデメリットもあるのではないかと思います。

そこでおすすめなのが、「メディアに触れる時間を決める」ということです。ずっと見続けてしまうことによりデメリットの部分が大きくなってしまうため、30分〜1時間ほどを目安に、時間を決めて視聴するのはいかがでしょうか?

それ以外の時間は、自分の生活に集中することが大切です。

不安な気持ちや喪失感を信頼できる他者と共有する

先ほど対象喪失のお話をしましたが、その際に「立ち合ってくれる人」がいると、より「喪の仕事」を進めやすくなることがあります。互いに不安な気持ち、悲しい気持ちを語り合い、気持ちを共有するのです。

ただし、誰と共有するのかは大切です。相手によっては否定されてしまい逆に気持ちが落ち込んでしまうこともありますよね。自分にとって信頼のおける相手と気持ちを共有することが大切と言えます。

「意味づけ」が大切

これは少し時間が経ってからのことになりますが、自分の中で「しっくりとくる」意味づけを行うことも有効です。今回の事件ではこの記事を書いている僕自身も深く心を痛めました。

総理大臣であっても一般人であっても、本質は同じであり、人の子であり、一人の人間であるわけです。ご本人は、まさか自分が打たれるとは思っていなかっただろう、「その瞬間」はどのような思いでいたのだろうと考えると、とても辛くなってしまいます。

しかし、僕はご本人に「感謝」をすることにしました。感謝という意味づけをすることで、少し前を向ける気がしたのです。更に、ご本人の想いを、僕のような若き日本人が継承し、まずはしっかりと日本の未来や政治について考えようという意味づけも行いました。そうすれば、ご本人の死は決して無駄ではなかったと思えるのです。

4. 身近な大切な人の心をどう守る?

まずは自分自身の心を守ることが大切です。そして自分に心の余裕ができることで、大切な人を守ることにもつながるのです。

今こそ受容・共感・自己一致を

受容・共感・自己一致とは、カウンセリングの創始者であるカール・ロジャースが提唱した、「カウンセラーに求められる3つの態度」を示しています。

受容・・相手の気持ちをあるがままに受容すること。

共感・・相手の気持ちをあたかも自分が経験しているのかのように感じ取り、それを伝えること。

自己一致・・自分自身に対して正直になること。

身近な相手が不安や悲しみに襲われている時にも、上記の考えは役に立ちます。

〜温かな態度で〜

「そっか。今はとても悲しいし、不安な気持ちになっているんだね。(受容)

きっと、急な出来事であったし、今は現実を受け止められないのかもしれないね(共感)

実は、私も(僕も)なんだ。今でもショックな気持ちが続いている。(自己一致)」

実際の会話にすると、上記のようになるかもしれません。とくに自己一致は大切で、自分も不安や悲しみを感じているのなら、それもありのままに伝えて良いのです。

アドバイスではなく、気持ちに寄り添う

相手のために何かしてあげたいと思うからこそ、何か有益なアドバイスをしてあげたくなることがありますよね。しかし、今回のような事態によって影響を受けているのは感情であるため、まずは感情に寄り添うことが重要となります。

「○○した方が良いよ」という言葉よりも、「不安だよね」「怖いよね」「悲しいよね」と気持ちに寄り添う対応が最も重要となるでしょう。

二次被害を防ぐためにも「メタ認知」が大切

今回の事件をきっかけに、社会では新たな動きが生じ、人と人が衝突をすることで二次的な被害が生まれる可能性も考えられます。多くの場合、「怒り」や「攻撃性」の背後に隠れているのは「不安」や「恐怖」なのです。

それは人も動物も同じであり、どんな動物も「危険性」を感じることで攻撃をけしかけますよね。

しかし、人には「自らを客観的に眺める」という力が備わっています。そのことを心理学では「メタ認知」というのですが、自分自身の思考や感情を外から眺める働きを示しているのです。

人が冷静さを失う時には、背後に不安・恐れがある

そのことを知っておくだけでも、少し冷静な判断ができるようになると思いませんか?相手が表に出している態度や言葉だけに注目するのではなく、その裏側にある「不安」や「恐れ」を汲み取ってあげることができれば、そしてそれをお互いに行うことができれば、二次被害は防いでいくことができると思うのです。

5. まとめ

生前、安倍元首相が、画面から語りかけていたメッセージは「日本を守る!」でした。そんな安倍首相が私たちに求めていることは、不安や恐怖の中にいながらも、毎日を健康に生きていくことなのではないかと思うのです。これまで日本のために尽くしてくださったリーダーの想いを大切に、まずは自分の心を大切に生きていきたいですね。それが、誰かを大切にすることにも繋がってくるはずです。

心理学を志す者として、僕は安倍元首相の外交での立ち振る舞いから多くを学ばせていただきました。アメリカのリーダーとゴルフをしたり、自国の文化を体験してもらったりと、アドラー心理学でも重要視されている「横の関係」を実践されているように思えたのです。

最後に、そんな大切なことを教えてくださったリーダーに、心からの感謝をお伝えするとともに、ご冥福をお祈りいたします。