交流分析における「ゲーム」の終わらせ方とは?【臨床心理士が解説】

心理学

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  • 交流分析の「ゲーム」という概念について詳しく知りたい
  • 「ゲーム」の終わらせ方を知りたい

交流分析(Transactional Analysis:TA)は優れた心理学の分野の1つであり、自己理解や人間関係において重要な示唆を与えてくれます。

とくに、「ゲーム」という概念は「なぜか嫌な感じの交流パターンを繰り返してしまう」という悩みを持つ方にとって、問題解決のヒントを与えてくれるでしょう。

本記事では、臨床心理士が交流分析における「ゲーム」の概要、そして終わらせ方について詳しく解説しているので、ぜひ読んでみてください。

本記事を読むことで、早い段階で「ゲーム」に気づき、上手に回避する方法を知ることができます。

そもそも交流分析とは?

交流分析は、カナダ出身の精神科医であるエリック・バーンが1950年代後半に創始した心理学の理論体系・心理療法です。

英語での正式名称はTransactional Analysisであり、頭文字をとって「TA」と呼ばれることも多いので、覚えておきましょう。

交流分析を学ぶことで人間関係やパーソナリティ(性格)についての理解が深まり、交流分析を行う心理の専門家だけでなく、一般的にも多くの学びを提供してくれます。

交流分析には7つの中核的な理論があるので、以下に記載しますね。

  • 自我状態
  • 対話分析
  • ストローク
  • 人生態度
  • 時間の構造化
  • ゲーム分析
  • 人生脚本

とくに「自我状態」に関する理論を理解しておくのは重要であり、「エゴグラム」と呼ばれる有名な性格分析ツールのもとになっています。

エゴグラムについては過去の記事でも解説しているので、興味がある方は読んでみてください。

交流分析の「ゲーム」とは何か?

交流分析において「ゲーム」とは、不快な感情を誘発したり、関係性を破壊的なものへと導くコミュニケーションのパターンのことを示します。

ゲームが始まった時にはそれに気づかず、後になって「なんでこんなことになってしまったのか?」と混乱し、嫌な感情が残るという「お決まりのパターン」のような交流があり、この交流パターンのことを「ゲーム」と読んでいるわけですね。

ゲームを仕掛ける側も、かかった側も、無意識であるのが特徴であり、ゲームをしてしまっている状態に「気づく」のが問題解決の第一歩となります。

交流分析やゲーム分析を学ぶことで、人間関係で生じるトラブルを予め予測し、より建設的なコミュニケーションへと意識的に変化させる力を養うことができるでしょう。

交流分析における代表的なゲーム

さっそく、交流分析の中でも代表的な「ゲーム」の種類を解説していきますね。

ご自身のこれまでの人間関係と照らし合わせながら読んでみると良いでしょう。

キックミー(足蹴にしてくれ!)

キックミー(足蹴にしてくれ!)とは、相手が嫌がるような交流をつい行ってしまい、自ら相手からの拒絶を招いてしまうような交流パターンのことです。

「さぁ私を蹴飛ばしてくれ!」という無意識的なメッセージが込められているので、「キックミー」という名前がついているわけですね。

例があったほうが分かりやすいので、以下に記載します。

太郎は、なぜか職場の人間関係で最終的には嫌われ、関係が悪化して退職してしまう。職場の人々に対して、つい嫌味を言ったり、きつく当たってしまったりするのだ。

最終的には、職場の人から反撃を食らったり、孤立したりしていつも孤独を感じているのであった。

太郎がつい「キックミー」を行ってしまう理由は、太郎の幼少期にあると交流分析では考えます。

太郎は幼少期に両親から愛されず、「自分は人から嫌われて当然だ」という信念のようなものを持っているわけですね。

そして、その信念をこれからも育てていくために、わざと人から嫌われることをして、信念を確固たるものにしようという「無意識」が働いており、ついキックミーを繰り返してしまうのです。

さぁつかまえたぞ!

「さぁつかまえたぞ!」は、先ほどお伝えした「キックミー」をつい行ってしまう人の「相手役」になることが多いゲームのパターンです。

他者に対してひどく当たってしまう人から攻撃を受けることが多いのですが、なぜかそのような方と積極的に関係性を結んでしまいます。そして、最後には相手を拒絶することによって、「ほらね!あなたは私にひどいことをする!立ち去りなさい!」というメッセージを相手に与えるのです。

例を以下に記載しました。

花子は、なぜか職場でパワハラ気質な人と一緒になってしまう。

パワハラ気質な人と離れれば良いものの、職場ではその方とついコミュニケーションを多くとり、なぜか関係性を持ってしまう。

ひどい扱いを受けることも多いものの、どの職場に行ってもつい深い関係を築いてしまい、最後には音信不通になり、唐突に職場を辞めてしまうのだった。

花子が持っている信念は「人なんて所詮信頼できないもの」というものであり、無意識レベルではパワハラ上司がひどいことをするたびに、「ほらみてみろ!人はひどいもんなんだ!」と思い、自分の信念を確固たるものにしているわけですね。

自分の中にある否定的な他者像に水を与えている(=報酬を与えている)ようなイメージです。

「はい、でも」ゲーム

「はい、でも」ゲームは、相手にアドバイスや助けを求めるものの、いざ相手がアドバイスやヘルプを投げかけてくれると、それを「でも・・」という言葉で拒否してしまうコミュニケーションのパターンです。

例を以下に記載しました。

桃子は親しい友人に恋人との関係性について頻繁に相談するものの、友人からのアドバイスに対して「でも、○○だから難しいかも」と反論を繰り返してしまっていた。

友人も何とか力にならなくてはとアドバイスをたくさんしてくれるが、最後にはアドバイスも尽きて、無力感に陥ってしまう。その度、桃子は「一生懸命考えてくれてありがとね」とため息混じりに友人に伝えるのだった。

上記のように、相手からのアドバイスに対してなぜか「でも・・」と反論し続けて、最後には相手を困らせ、自分の中にも不全感が残るコミュニケーションが「はい、でも」ゲームです。

相談を持ちかける側にも、相談を受ける側にも、「嫌な感じ」が残ります。

「はい、でも」ゲームを行っている桃子の無意識的な目的(本当の目的)は、自分と相手に無力感を味合わせることであると交流分析では考えます。

子どもの頃に両親に支配されていた経験があり、「どうせ人は私のことを分かってくれないのよ!」という信念を確固たるものにしようとしていると考えるのです。

世話焼き

「世話焼き」は、「はい、でも」ゲームの相手役が陥ってしまうパターンです。

相手のためになんとかしてあげなきゃと考えてあの手この手を試すものの、最後には相手から援助を拒絶されてしまい、無力感に陥ってしまうわけですね。

例を以下に示しました。

次郎は友人である桃子の恋愛相談に度々のってきた。

いつもアドバイスをするが、桃子は「でも・・」と反論を続ける。

次郎の中では、何を言っても桃子には通じないという憤りの気持ちや、自分の力ではどうすることもできないという無力感だけが残っていた。

上記からも分かるように、何を言っても相手には響かないとどこかで感じていても、ついアドバイスをし続けてしまうパターンが「世話焼き」です。

これも、「自分は無力である」という幼少期に身につけた信念を、自ら確固たるものにしようとする深層心理が働いているわけですね。

交流分析におけるゲームの方程式

上記では、交流分析の中でも特に有名な4つの「ゲーム」を具体例をもとに解説しました。

そして、どのゲームにも共通する方程式があるので、以下に記載しますね。

罠(わな)+弱み=反応→切り替え→混乱→報酬

どのようなゲームであっても、ゲームは必ず上記の過程をたどると考えられています。

それぞれの要素の詳細を、以下に記載しました。

  • 罠(わな):表面的には一般的な交流であるものの、心理的なメッセージで「弱み」を持つ相手を誘導します。

例)「困っているから相談に乗ってくれない?」と罠を仕掛けるが、無意識的には相手と自分に無力感を味合わせたいと思っている。

  • 弱み:相手の罠に引っかかってしまう要素

例)心のどこかでは「相手は聞く耳を持たないだろう」と分かっているのに、一方ではつい「助けにならなければ」と思ってしまい、援助を与え続けてしまう。

  • 反応「罠−弱み」という構図で成り立つ一連のコミュニケーションを繰り返す

例)一方はアドバイスを投げかけ、一方は「でも・・」と反論する不毛な会話を繰り返す。

  • 切り替え:一方からの働きかけにより、一気に立場が逆転する。

例)相談を持ちかけた側が、「一生懸命考えてくれたんだね」とアドバイスをしていた人を慰める。(気がついたらアドバイスを与えていた人が「困っている人」に切り替わっている!)

  • 混乱:「切り替え」により、気持ちの動揺が生じる。

例)アドバイスを与えていた側は「あれ?立場が逆転している・・」と混乱する。

  • 報酬:幼少期に身につけた破局的な信念を裏づける結果(=嫌な気持ち)を報酬として受け取り、お互いが破局的な信念をさらに育てる。

例)相談を持ち掛けた側は「どうせ人は自分を分かってくれない」という信念を強化させ、アドバイスした側は「自分は無力なんだ」という信念を強化させる。

交流分析では、ゲームでは必ず「切り替え」と「混乱」の段階を経験すると考えます。

よって、「立場が切り替わった感じ」と、切り替わったことによる「混乱」が生じているかが、「ゲームであるかどうか」を見分ける判断基準になるのです。

交流分析のゲームを終わらせる方法

ゲームは、お互いが気づかず、無意識的に行ってしまう破滅的なコミュニケーションです。

しかし、ゲームを続けることなく上手に終わらせる方法も交流分析は提供してくれているので、以下に記載しますね。

ゲームについての理解を深める

ゲームには一定の法則があるので、交流分析やゲームについて深く学び、理解することによって以下の2つが可能になります。

  1. ゲームに気づけるようになる
  2. ゲームを終わらせられるようになる

また、単にゲームを終わらせるのではなく、ゲームとは異なる本来の「健全な大人同士の方法」でコミュニケーションが取れるようになるのがゴールと言えます。

「代替案」を用いる

代替案とは、自分の中にある冷静で大人な側面(=交流分析で言う「A(アダルト)」という自我状態)をフル活用して、現在の交流パターンに変化を起こし、自分を破滅的なコミュニケーションから脱出させる方法のことです。

例えば、相手が「はい、でも」ゲームを仕掛けてきた場合、アドバイスを与え続けてしまうと、ゲームのドツボにハマってしまいますよね。

そこで、一度冷静に立ち止まって考え、自分の「在り方」を変化させるのです。

例えば、「はい、でも」ゲームを仕掛けてきた相手に対して、「実のところ、こっちもどうして良いか分からないんだよね。逆にどうしたら良いと思う?」と聞き返してみることで、ゲームから抜け出すことができるでしょう。

「代替案」はゲームを終わらせることができる代表的な方法です。

ゲームに気づいた自分を褒める

ゲームは無意識的に行われるものなので、気づけないことが多いです。

人間関係においてうっかりゲームを進めてしまって、最後の最後の結末で気づいたとしましょう。

一見もう打つ手はないように思えますが、最後の策として「報酬(=嫌な感じ)」を受け取らない、という方法があります。

最後に「報酬(=嫌な感じ)」を受け取ることで、自分の中にある破局的な信念を育てるのがゲームの目的でしたよね。

そうであれば、ゲームによる報酬を受け取らなければ、ゲームは成立しなかったということになるのです。

具体的には、最終的には交流が「ゲーム」であったことに気づけた自分を褒めてみましょう。

よくゲームだと気づけたね!賢いな自分!

上記のように自分を褒めることで、報酬によって自分の破局的な信念を育てる、という人生における悪循環をストップさせられるのです。

シンプルに「求めているもの」を得ようとする

例えば「キックミー」を行ってしまう人は、相手を傷つけることによって、自分が孤独であるという信念を確固たるものにしようとしています。

つい「キックミー」を行ってしまう人は、シンプルに「本当はあなたと仲良くなりたいんだ」「認められたいんだ」と伝える練習をしてみましょう。

相手を傷つけることによって関係を保とうとする歪んだ方法を使う代わりに、「一緒にランチでもいかが?」とストレートに誘ってみるのです。

「相手が嫌がることをわざと言う」という歪んだ方法で注目を得ようとするのではなく、自分の要求をシンプルに伝えることでゲームを避けることができ、互いに嫌な気持ちにならないですむわけですね。

まとめ:交流分析のゲームを終わらせるには更なる学びが必要

今回の記事では、交流分析における「ゲーム」の概要や、ゲームを終わらせる方法について解説しました。

今回の記事ではかなり色々な理論を端折って説明しましたが、ゲーム分析は交流分析の理論体系のうちの1つにすぎません。

ゲームについてさらに正しく理解し、対処できるようになるには「自我状態」に関する理論や「脚本分析」など、交流分析についての全体的な理解を深める必要があります。

人間関係において多くの示唆をくれるだけでなく、実践的な学問である交流分析は、心理学に関する資格取得を考えている方にもおすすめです。

交流分析の資格に関しては過去の記事でも解説しているので、興味がある方は参考にしてみてください。