認知の歪みの治し方【臨床心理士が解説】

心理学

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長年に渡ってネガティブ思考に悩んでおり、認知行動療法を書籍等によって学び始めた方は、「認知の歪み」と呼ばれる概念に出会っているはず。

更に、認知の歪みを治すにはどうしたら良いの?という疑問を持つ方もいらっしゃいますよね?

そこで、今回の記事では、「認知の歪みを治すにはどうしたら良いのか?」という部分に焦点を絞って解説していきたいと思います。前半は認知の歪みという概念そのものについても詳しく解説するので、安心して読んでくださいね。この記事を読むことで、認知の歪みを柔軟に変えていき、幸せな人生を歩んでいく一助としていただければ幸いです。

1.「 認知の歪み」とは?

「認知の歪み(にんちのゆがみ)」という概念を最初に唱えたのは、アーロン・ベックというアメリカの精神科医です。彼はうつ病患者さんの治療や研究を行なっていたのですが、日々うつ病患者さんと会話していく中で、彼らに特有の「考え方の特徴」があることに気づいたのです。

その考え方の特徴とは、現実を極端に解釈したり、ネガティブな部分に目を向けるような特徴であり、それをベック先生は「認知の歪み」と名付けたのでした。

2. 代表的な「認知の歪み」10コ

ベック先生のもとで学んでいた経験があり、認知行動療法の専門家であるデビッド・バーンズ先生は、著書「フィーリングGoodハンドブック」の中で、以下に記載する11の認知の歪みがあると述べています。

①全か無か思考

物事を、0か100かのどちらかで捉えてしまう思考です。「成功か失敗か。」「良い人か悪い人か。」「仕事ができるか出来ないか。」どれも、極端な考え方です。実際は、0%から100%までの連続線上のどこかに自分がいるはず。

一般化のしすぎ

1つの否定的な出来事を、自分全体の欠点であると解釈してしまうことです。例えば仕事で1回ミスをしてしまったら、「自分は仕事が出来ないな」と考えてしまうのです。1から全体へと、解釈が飛躍していますよね。

心のフィルター

嫌な事があったとき、そのことばかりを考えて一日を過ごしてしまうことはありませんか?これは、嫌な事に執着している状態です。嫌なことに執着している心のフィルターを通して世界を見ることになるため、気分はずっと暗いままになります。

④マイナス化思考

せっかく努力をして成果を上げたのに、「こんな事は誰でもできる」と考えます。かと思えば、失敗した時には、「やっぱり自分はダメだ」と考えるわけです。頑張った自分にご褒美をあげずに、失敗した自分にお仕置きをする。これがマイナス化思考です。自分の中に「理不尽な飼い主様」を持ってしまっている状態とも言い表せるでしょうか。

⑤結論への飛躍

明確な根拠がないにも関わらず、物事を悪い方向へ解釈し、結論を出してしまう考え方。「結論への飛躍」には2種類あると考えられています。

1. 心の読みすぎ

周囲の人が自分のことを悪く考えていると、勝手に思い込んでしまうことです。「あの人は自分を嫌っている」など。表情や視線、仕草などの中立的な情報から勝手に解釈してしまうことが多いです。

2.先読みの誤り

状況が悪い方向に進むと勝手に思い込んでしまいます。「今は良いが、そのうち職場の人と人間関係が悪くなる」と考えてしまう時など。先読みの誤りは「不安」の原因となります。

⑥拡大解釈と過小評価

自分の短所や問題は誇張し、長所やよく出来ているところは縮小して捉えてしまいます。「マイナス化思考」と説明が似ていますが、マイナス化思考は「思考の内容」をマイナス化しているのに対し、拡大解釈・過小評価は「注目の度合い」に極端なところがある、という部分に違いがあると僕は思っています。

⑦感情的決めつけ

感情を理由に、解釈や行動を決めてしまうことです。「やる気にならないから、やらない」「緊張するから、上手くいかないに違いない」などの考えはこれにあたります。しかし、感情は流動的なもの。そこに振り回されると、成長の機会をネガティブ感情に奪われてしまいます。

⑧すべき思考

自分自身や周囲の人に対して、「〜すべき」「〜すべきでない」という考えを押し付けてしまうことです。「人にはいつも優しくするべきだ」「失礼な態度は取るべきではない」など。的を得ていることも多いですが、それが強すぎることで自分自身が常にストレスを感じてしまう可能性があります。

⑨レッテル貼り

「あの人は仕事ができる人」「自分は仕事が出来ない人」という考えは、自分や他人にレッテルを貼っていることになります。一度レッテルを貼ってしまうと、変更が難しくなってしまいますよね。すると、良い方向に変化させていく事が難しくなってしまいます。「今は〜になっている」という状態像を表す言葉を使うことで、レッテル貼りから脱しやすくなります。

⑩個人化と責任の押し付け

個人化は、自分が責任を負っているとは限らないことを自分のせいにしてしまうことです。隣で「貧乏ゆすり」をしている人がいる時、「自分にイライラしてるのだろうか?」と思い、心許ない気持ちになってしまうのです。逆に責任の押し付けは、自分も責任の一端を担っているような事柄に対して不満を持ってしまうことです。「日本の政治はどうなっているんだ!」と言っていたとしても、実は民主主義国家においてはその責任を自分も担っているのです。

3. 認知の歪みの治し方

ここからは本題である「認知の歪みの治し方」について解説していきたいと思います。

認知の歪みの治し方ステップ①:自動思考を書き込む癖をつける

認知の歪みを治すためには、自分がどのような認知の歪みを持っているのか知る必要があります。そして、認知の歪みとは瞬間的に頭に浮かんでくる考えである自動思考の中に含まれているもの。まずは自分の自動思考を可視化する必要があります。

自動思考を可視化するためには、コラム法と呼ばれるワークシートがおすすめです。コラム法に関しては、過去の記事で書き方を解説しているのでそちらをご覧ください。

認知の歪みの治し方ステップ②:認知の歪みを特定する練習をする

コラム法には「自動思考」を書き込む欄があると思いますが、自動思考を書き込んだら、その文章の中に含まれる認知の歪みを特定してみましょう。

具体的には、先ほどご紹介した10の「認知の歪み」をリスト化したものを良く読んで、当てはまると思う認知の歪みの種類を余白に書き出してみてください。複数の認知の歪みが当てはまることも多いです。

このワークを何回も繰り返していくうちに、自分がよく陥りがちな認知の歪みの種類が分かってくるのではないかと思います。例えば、人によっては「すべき思考が強い」と気づくこともありますし、人によっては結論への飛躍の中の「心の読みすぎが強い」と気づくでしょう。これは、自分の偏った自動思考の「患部」が特定できたということです。

認知の歪みの治し方ステップ③:認知の歪みに反論する練習をする

コラム法のワークシートを使って自分の自動思考を書いたり、認知の歪みを特定したりする練習を続けていく中で、だんだん自分の非合理的な思考に気づくようになってきます。

「あれ?今の自動思考、全か無か思考になっていたような・・!」

という具合ですね。

そしたら、その思考に対して反論する練習をしましょう。ポイントは、「鉄は熱いうちに打て」ということです。ストレスフルなことがあったら、なるべく早い段階でコラム法のワークシートに記入しましょう。

そして、合理的な自分で、自動思考に反論してみるのです。

仕事でミスを指摘されたからって、それは自分の全てが否定されたわけじゃない!

といったように。例えるなら、「ポケモン」です。敵のポケモンが「認知の歪みモンスター」だとしたら、それに対して「反論攻撃」をして倒してしまいましょう。すると、自分の精神的健康レベルが高まっていくわけです。認知の歪みが出てきたら、その場で反論する・・その繰り返しで、認知の歪みを弱めていきましょう!

因みに、「反論」ということばを使っていますが、認知の歪みを含んだ自動思考に反論することは、イコール自分を「尊重すること」と言えます。

認知の歪みの治し方ステップ④:実験を通して認知の歪みに挑戦を挑む

人が変わるための方法として、最もインパクトが強いのは、「体験すること」です。アメリカの生活について理解を深めたい人は、日本でアメリカに関する本を100冊読むよりも、アメリカで生活してしまうのが一番早いですよね。

認知の歪みを治すうえでもそれは同様で、認知の歪みが間違っているということを実践を通して体験することが一番早いでしょう。

このように、実際に実験してみることで認知の歪みの妥当性を確かめるプロセスのことを、認知行動療法では「アクションプラン」と呼びます。

例えば、職場のAさんに嫌われているのではないかと考えているとして、その考えが妥当であるか確かめるためにどのような実験をしてみれば良いでしょうか。僕が、今思いついたものを下に書いてみます。

A. 本人に直接聞いてみる

B. 本人にわざと雑談を持ちかけて反応を見てみる

C. 飲みに誘ってみる

D. 他の同僚に聞いてみる

本人に直接聞いてみるのが一番早い気はしますが、ちょっと勇気がいりますよね・・(笑)

そこで、僕ならB. 本人にわざと雑談を持ちかけて反応を見てみるを選びます。このようにして、アクションプランを立てて実行し、自分の認知の歪みの妥当性を検証してみてください。きっと、何かヒントが得られるはずです。

4. 病的な思考と健全な思考の違い

ここまで認知の歪みの治し方について解説してきましたが、この記事を書いていて、僕自身の中に疑問が湧いてきました。それは、「認知の歪みではなく、思考が事実を反映していることもあるのでは?」という疑問です。

例えば、「○○さんに嫌われているかもしれない」と考えてしまうのは「心の読みすぎ」という認知の歪みに該当するでしょう。しかし、実際に嫌われていることもありえますよね・・?

その場合、「嫌われているかも」というのは病的な思考ではなく、むしろ健全な思考といえそうです。

そこで、デイビッド・バーンズ先生が著書「フィーリンググッド・ハンドブック」の中で述べている、「うつと健全な悲しみの違いは何か?」という記述が脳裏に浮かびました。

・うつには、自尊感情の喪失が伴っている

・うつはずっと続く

・うつ状態の人は生産的な活動を行えない場合がある

・うつは非現実的であり、常に歪んだ思考から生じる

・うつは病気である

・将来予測が客観的には明るいものであっても、うつ状態の人は将来に希望がないと感じる

フィーリングGoodハンドブック(p58) デビッドD.バーンズ 著 野村総一郎監訳 株式会社星和書店

いかがでしょうか。実際、誰かが自分のことを嫌うことはあるかもしれません。しかし、その思考に執われることによって自尊感情を喪失していたりその執われがずっと続いていたりそれによって生産的な活動を行えなくなっていたりする時に、「認知の歪み」と言えるのではないでしょうか?

「認知の歪みか否か」というのは法律で決められているわけではありません。あなたが「辛い・・」と感じた時、その背後には認知の歪みがあるということなのです。

5. まとめ

最後までお読みいただきありがとうございました。今回の記事では、認知の歪みの治し方について、詳しく解説させていただきました。実は、認知の歪みは無理に治そうとしなくても、「自分がどんな認知の歪みを持っているか」ということに気づくだけでも弱まっていくことがあります。自分の問題のメカニズムが分かるだけで、自然に対処するようになるからです。なので、「治さなくては・・!」と気を張り詰めすぎず、気長な気持ちで付き合っていくのが良いのではないかと思います。