心理学のACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)とは?詳しく解説します。

心理学

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心理士のにっしーです!今回の記事では、現在最も注目されている心理療法の1つである、ACT(Acceptance&Commitment Therapy: アクセプタンス&コミットメントセラピー)の概要について、詳しく解説していきたいと思います!

この記事を読むことで、ACTの基本をおさえることができると思います。

1. ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)とは?

ACTは、アメリカの心理学者であるスティーブン・ヘイズ(Steven C. Hayes)と、共同研究者であるケリー・ウィルソン(Kelly G. Wilson)カーク・ストローサル(Kirk D. Strosahl)によって提唱された新しいタイプの心理療法です。

特徴は、怒り・不安・憂うつなどの「負の感情」や、「ネガティブな思考」をコントロールしようとすることをやめることにあります。

コントロールするのではなく、それらを客観視したうえで受容し、自分の価値に向かって人生を進めることを促すことが、ACTの目的です。

また、ACTはうつ病や不安障害などの精神疾患への有効性が実証されている、認知行動療法の中の一つとされているのですが、その中でもマインドフルネスなどに代表される「第三世代の認知行動療法」に位置付けられています。

詳しくは以下のブログにて!

2. これまでの心理療法との違い

これまでの心理療法とACTの決定的な違いは、ネガティブな感情やネガティブな思考を取り除こうとするか否かにあります。

たとえば、狭い意味での認知行動療法と言われている認知再構成法では、コラム法と呼ばれるワークシートに自分のネガティブな思考を書き込み、そのうえでより適応的な思考を再考していきます。コラム法の書き方については、以下の記事をご覧ください(*^^*)

もちろん、認知再構成法のようなやり方も一定の成果を挙げており多くの方が精神的な問題から救われています。

しかし、ACTの開発者たちは、それでもなお、精神的な問題を抱える人々が絶えないことを問題視していました。そこで行き着いたのが、そもそもネガティブな思考や感情と闘うのをやめる、という考えだったのです。

3. ネガティブな思考・感情は人として「正常な機能」である。

人類が、原始時代から抱えている課題は何でしょうか?それは、他の地球上の生物と同様、種の保存です。

そして、自らが生き残るため、家族を守り、子孫を繁栄させるためには、ネガティブ感情が役にたっていました。

もしかしたら、猛獣が襲ってくるかもしれない・・!

上記のように考えると「不安」な気持ちになりますが、そのおかげで事前に武器を作っておいたり、安全な場所を確保したりできたわけです。また、

前みたいに寒くなったら、自分も皆も凍えて死んでしまう・・!

上記のように考えたおかげで、ちゃんと不安になり、寒さに備えて食料を備蓄しておいたり、暖を取れるようにする行動が促されていたわけですね。

つまり、ネガティブな思考や感情は人類にとって適応機能である、と言えます。

なので、ACTの開発者たちはそれらに抗おうとするのをやめ、まずは受容(アクセプタンス)することを促しているのです。

4. 自分の「価値」に向かって行動を起こす

実は、ACTの目的は、メンタルヘルスではないのです。

というのも、ネガティブな思考や感情は自然なものだからですね。では、ACTでは何を目指すのか?

それが、自分の価値に向かって行動を起こしていくことなんです。その中でメンタル面が安定してくることはあるかもしれませんが、それはあくまで副産物的なもの。

自分は人生において何を大切にしていきたいのか?

という価値観を明確にし、それに向かって行動していくことこそが、良い人生を作っていくんですよね。僕は、この考えがとてもしっくりと来ました。

5. ACTの6つの基本行動原則

ここでは、ACTの第一人者の1人である英国生まれの医師および心理療法家、ラス・ハリス(Russ Harris)による著書、「幸福になりたいなら、幸福になろうとしてはいけない」をもとに、ACTの6つの基本行動原則をお伝えしていきます。

5-1. 脱フュージョン

例えば、A男はカフェで働くB子のことが気になっており、勇気を出して話しかけてみたとします。緊張して言葉は詰まり、なんだか内容もちぐはぐになってしまいました。

そこでA男は一日中「顔がひきつってたな・・」「きっと嫌われただろうな・・」「気持ちわるいと思われたかも」と考え続けます。A男は、B子の顔が一瞬ひきつったイメージを繰り返し頭の中で「再生」し、ネガティブに考え、落ち込んでいたのでした・・。

この時、A男はACTで言う「フュージョン」を起こしている状態になっています。

フュージョンとは、頭の中で考えていること(思考やイメージ)を、現実として受け止めてしまっている状態を示します。

相手に嫌われた

という考えや、B子の顔がひきつっているように見え、「気持ちわるがられてる・・」という思考をA男は抱きましたが、それはあくまでA男が解釈していることにすぎません

ACTでは、まずは脱フュージョンを目指します。脱フュージョンとは、自分が思考と一体化してしまっている状態を脱し、「あくまでこれは思考にすぎないんだ」と認識することを示します。

B子に嫌われている、と思った。

気持ちわるがられている、と思った。

などのように、思考の後に「と思った」をつけることで、脱フュージョンしやすくなると考えられています。

ラス・ハリス博士による「幸福になりたいなら、幸福になろうとしてはいけない」の中では、そのほかにも豊富な「脱フュージョン」のための技法が紹介されているので、ぜひ読んでみてくださいね!

5-2. 拡張

B子に嫌われてしまったのではと繰り返し考え、落ち込んでいたA男ができることは、何でしょうか?

①落ち込む気持ちや不安がなくなるよう働きかけ、気分が回復してからB子に再度アプローチする。

②落ち込む気持ちや不安を受け入れ、そういったネガティブな気持ちを格納しておく「スペース」を心の中に作る。

ACTでは、判断をする際の基準として「有効性」を重視します。

そう考えた時に、①の手段を取った場合、必ずしも有効性が高いとは言えないかもしれません。ネガティブ思考やネガティブ感情はぶり返すからです。本能ですからね。

そこで、ACTでは②を選びます。具体的には、以下のようなプロセスを経て、不快な思考や感情を受容し、それを置いておくスペースを作ります。

ボディスキャンで不快感に気づく

ボディスキャンとは、身体の上から下まで、「スキャン」をするようなイメージで感覚に意識を向けることです。

そこで、もしも不快感を感じる部位があれば、それを注意深く観察します。

不快感に息を吹きかけ、スペースを作る

ボディスキャンによって見つかった不快感に対して、息を吹きかけるイメージをしてしましょう。また、息を吹きかけることで不快感が存在できるスペースを作ってあげるようにしてください。

存在を許す

ここが最も重要なのですが、不快感に対して「ありがとう」と声をかけるなど、存在を許してあげてください。好きになる必要はないけど、「自分の中にいてもいいよ」と容認してあげるのです。

A男は、「B子に嫌われているのでは」と考えて不安になっていましたが、その不快感を追いやることなく、上記のワークを行い、容認してあげたのでした。

5-3. 接続(つながる)

接続(つながる)というのは、「今この瞬間」につながることを意味しています。思考というのは、過去や未来を行ったりきたりするもの。過去のことや未来のことを考えてくよくよと悩んでしまうことがありますが、行動を起こし、影響を及ぼすことができるのは「今」だけです。

ここでは、五感を研ぎ澄ませて、今この瞬間に周囲で起きていることを観察したり、呼吸に意識を向けたりするワークを行うことにより、今この瞬間と繋がっている感覚を取り戻していきます。

効果性を発揮できるのは、「今この時」だけなのです。

5-4. 観察する自己

ここでは、自分が考えていること、感じていることを客観的に眺め、気づく練習をしていきます。例えば、空は曇ったり、雨を降らせたりしますが、雲の上の世界はいつも晴れていますよね。それと同じように、私たちは色々なことを考え、色んな感情を経験しますが、そのさらに上には、耐えずそういった全てを観察している自己というものがいるのです。

観察している自己は育てるものではなく、「気づくもの」です。

5-5. 価値の確認

ここでは、自分がどのような価値観を持っているのか、つまり、人生の中でどのようなことを大切にしていきたいのかを明確にしていきます。

ラス・ハリス博士による「幸福になりたいなら、幸福になろうとしてはいけない」の中では、自分の価値観を可視化するための方法として、「標的の図」というものが紹介されています。

ちなみに、価値と目標の違いとは何でしょうか?同書籍の中では、「ゴールがあるかないか」が違いであると解説されています。

例えば、「クリエイティブに生きていきたい!」というのは価値なのですが、「クリエイティブに生きる」というのは、ゴールがないですよね?

対して、「絵画コンクールに出展する」という目標には「作品の提出」という明確なゴールがあります。

さて、A男は、自分の価値観を紙に書き出しながら検討した結果、「心から好きな人と、生涯を共にしたい」という価値観が自分にはあると気づきました。

5-6. 目標に向かっての行動

A男は、ネガティブな思考や感情をどうにかしようとするのではなく、その存在を認めたうえで、自分にとって価値のある行動を起こしていくことが最も大切であることを、ACTを通して学びました。

心から好きな人と、生涯を共にしたい

という自らの価値観を見つけたA男は、相手に拒絶されてしまうかもしれないという不安こそ持っていながらも、それによって経験を回避してしまうことこそが、不幸のはじまりであることを知りました。

そして、自分の価値に沿った行動、つまり、B子を食事に誘ってみることを決めたのです。

もしかしたら、断られてしまうかもしれないし、やはりA男の恋は実らないかもしれません。A男は不安です。それでも、A男は不安を回避するのではなく、価値に沿った行動を取ることを選んだのでした。ネガティブな思考や感情は、価値に沿った行動を邪魔してきます。冒険は危険を伴うからです。そんな人間の防衛本能に「ありがとう」とだけ伝え、後は自分の価値に近づくための行動を着実に取っていく。私たちがやることは、それだけのようです。  

6. まとめ

いかがでしたでしょうか。今回の記事では、心理学の中でも近年注目されている新しい心理療法である、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)の概要をお伝えしました。

この記事を読んでいただき、大まかな内容は理解できたのではないかと思います。しかし、おすすめは原著をしっかり読んでいただくこと。やはり、提唱者が言っていることを直接学ぶのが、最も近道なのではないかと思うのです。おすすめは以下の2つなので、もしよければ読んでみてくださいね!